カトリック正平協、JOC 『福音と社会』差別的「書評」で声明「深刻な二重加害」

カトリック社会問題研究所(狩野繁之代表幹事)が発行する雑誌『福音と社会』の323号から325号に掲載された『LGBTとキリスト教 20人のストーリー』(日本キリスト教団出版局)の「書評」が差別的内容だと批判する声が上がっている問題(本紙2月1日付既報)で、日本カトリック正義と平和協議会(ウェイン・バーント会長、エドガル・ガクタン担当司教)は2月13日に声明を発表した。

声明は、この書評に「看過し得ない偏見、差別的表現が随所に認められ」るとし、『LGBTとキリスト教 20人のストーリー』に寄稿もしくは対談に応じた「LGBTQ+(セクシュアルマイノリティー)当事者20人の方々を著しく傷つけるものであったと考えます」と主張。この20人のうちの多くがLGBTQ+に対する無理解と差別によって、教会から排除された経験を語っており、「カトリック司祭によって執筆された本書評は、そうした経験にさらに追い討ちをかけるものであり、深刻な二重加害にあたる」と訴えた。

記事の掲載を決定した『福音と社会』編集部に対しては、この20人の訴えに真摯に耳を傾け、数多くのLGBTQ+当事者に想いを寄せ、責任ある行動に向かうよう要請した。

また、これに先立ちカトリック青年労働者連盟(JOC、レネ・カンデラリア全国担当司祭)も2月10日、「LGBTQ+の人々とともに歩みます」と題する声明を発表。JOCは当初、『福音と社会』の発行元である同研究所宛に直接意見文を送り、発行差し止めと公の謝罪を求めていたが叶(かな)わず、同誌への寄稿も提案されたが、「編集部からの謝罪でなく、もう一方の意見も載せることでバランスを取るようなことは、今回の件において適切な解決ではないと考え」、JOCの意見と立場は別の場で公にすることにしたという。

声明は「LGBTQ+(性的マイノリティ)の人々とともに歩みます」「聖書の言葉を差別の理由に用いることに反対します」「トランスジェンダー差別に反対します」との立場を明示した上で、「ヘイトスピーチは言葉の暴力であり、差別意識を扇動し、人の命を脅かすもの」「このような、人に危害を及ぼす文章を一意見として取り扱い、掲載した上で、反対意見も掲載して中立に立とうとする『福音と社会』編集部の態度」に抗議の意思を示し、「差別者と被差別者の間で、中立でいようとすることは、差別への加担にしかなりえません」と改めて批判した。

各声明の全文は以下の通り。


『福音と社会』に掲載された
「『LGBTとキリスト教―20人のストーリー』を読んで」について

 日本カトリック正義と平和協議会は、『福音と社会』No.323,324,325掲載の書評「『LGBTとキリスト教―20人のストーリー』を読んで」には、看過し得ない偏見、差別的表現が随所に認められ、『LGBTとキリスト教―20人のストーリー』(日本キリスト教団出版局、2022年3月)に寄稿、あるいは対談に応じられたLGBTQ+(セクシュアルマイノリティー)当事者20人の方々を著しく傷つけるものであったと考えます。

また、20人の方々はキリスト者であり、そのうちの多くが、キリスト教会のLGBTQ+に対する無理解と差別によって、教会から排除された経験を語っています。カトリック司祭によって執筆された本書評は、そうした経験にさらに追い討ちをかけるものであり、深刻な二重加害にあたると考えます。

この記事の掲載を決定した『福音と社会』編集部には、この20人の方たちの訴えに真摯に耳を傾け、またその背後にあって、差別によって今なお見えにくくされている数多くのLGBTQ+当事者の方々に想いを寄せ、責任ある行動に向かってくださいますよう、お願いいたします。

日本カトリック司教団は、『いのちへのまなざし【増補新版】』(カトリック中央協議会、2017年3月)において、「イエスはどんな人をも排除しませんでした。教会もこのイエスの姿勢に倣って歩もうとしています。性的指向のいかんにかかわらず、すべての人の尊厳が大切にされ、敬意をもって受け入れられるよう望みます。同性愛やバイセクシャル、トランスジェンダーの人たちに対して、教会はこれまで厳しい目を向けてきました。しかし今では、そうした人たちも、尊敬と思いやりをもって迎えられるべきであり、差別や暴力を受けることのないよう細心の注意を払っていくべきだと考えます」(27)と述べています。

カトリック教会のメンバーである私たちもまた、LGBTQ+の方々に教会の扉を閉ざし、差別し、ときには自死に至るまでに尊厳を傷つけてきたことに気づき、「すべての人はひとしく神の子である」というイエスのメッセージを、この地上に実現するための回心の恵みを、主なる神に願います。

2023年2月13日
日本カトリック正義と平和協議会
会長 ウェイン・バーント
担当司教 エドガル・ガクタン
協議会一同


JOCはLGBTQ+の人々とともに歩みます

この声明は、カトリック社会問題研究所が発行する雑誌『福音と社会』323号~325号に掲載された谷口幸紀氏による「『LGBTとキリスト教 20人のストーリー』を読んで」という文章が、LGBTQ+、性的マイノリティの人々への中傷を含む差別的内容だったことを受けてのものです。

当初JOCは同研究所に直接意見文を送り、発行差し止めと公の謝罪を求めていましたが、かないませんでした。

JOCの意見を『福音と社会』誌に寄稿することも提案されましたが、編集部からの謝罪でなく、もう一方の意見も載せることでバランスを取るようなことは、今回の件において適切な解決ではないと考え、JOCの意見と立場は別の場で公にすることとしました。

昨今日本では、岸田文雄首相が同性婚法制化について「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と国会答弁し、関連して荒井勝喜前首相秘書官による差別発言が問題となっています。カトリックの団体として社会と関わる私たちは、このような差別の潮流に反対していかなければならない立場であることを、ここに明確に示したいと思います。

・JOCはLGBTQ+(性的マイノリティ)の人々とともに歩みます

JOCは現状を「見る」ことから出発する方法論を大切にしています。

100年前、ベルギーでJOC運動を始めたカルデン神父は毎朝夕、道端に立ち、若い労働者たちに声をかけました。聖書の教えを説くためではありません。彼らの生活と仕事の現状、直面している現実について聞くためです。

私たちは、このカルデンの精神はイエスの生き方とも通じるものだと信じています。

教えを説くことでなく、当事者に聞くこと、その現実に寄り添うことから始めるJOCは、LGBTQ+の存在と権利を否定するのではなく、ともに歩むことを選びます。

・聖書の言葉を差別の理由に用いることに反対します

「書評」元の『LGBTとキリスト教』(日本キリスト教団出版局)にもすでに書かれていることですが、聖書の教えをすべて実行して生きることはかなり困難であること、聖書には現代の価値観に合わない当時の差別を内包している箇所も多々あること、科学を否定し聖書のすべてを事実として捉えることはできないことは、多くのキリスト教信徒が理解していることです。

しかし、この度の記事のような、創世記を引用してLGBTQ+の人々を否定するような言葉が出ると、そちらに気持ちが揺れてしまう信徒も多くいるでしょう。これは聖書の悪用といえます。差別の裏付けとして利用できる部分を都合よく持ち出し、隣人を愛することよりも中傷するために用いることに、私たちは反対します。

・トランスジェンダー差別に反対します

*トランスジェンダー…生まれた時に割り当てられた性とは違う性自認をもつジェンダーアイデンティティ。シスジェンダー···生まれた時に割り当てられた性と性自認が一致しているジエンダーアイデンティティ。

JOCはあらゆる差別に反対します。しかし今、とりわけトランスジェンダー差別について言及するのは、近年世界的にトランスジェンダー差別が激化し、多くのトランスジェンダーの人々が危機的な状況に立たされているからです。

当該記事も、その流れを汲むような記述が数多く見られました。

この現代社会では、シスジェンダーであろうとトランスジェンダーであろうと、誰もが完全な身の安全を保証されない中で、それぞれに防犯などに気を配りながら生活しています。

その中で、被差別マイノリティの人々がまるで犯罪率の高い集団のように見なされ、危険視される事例は、人種・民族や障害・病気などにおいても、何度も繰り返されてきた差別です。

シスジェンダーだからという理由で排除される人がいないように、トランスジェンダーだからという理由で危険視され、排除される人があってはならないと私たちは考えます。

・JOCはヘイトスピーチを言論として扱うことに反対します

ヘイトスピーチは言葉の暴力であり、差別意識を扇動し、人の命を脅かすものです。この度の記事でも、命を脅かされるような恐怖を感じた当事者はきっといたことでしょう。

このような、人に危害を及ぼす文章を一意見として取り扱い、掲載した上で、反対意見も掲載して中立に立とうとする『福音と社会』編集部の態度に、私たちは再度抗議します。

差別者と被差別者の間で、中立でいようとすることは、差別への加担にしかなりえません。

2023年2月10日
JOC カトリック青年労働者連盟
全国担当司祭 レネ・カンデラリア

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