韓国教会の中の「国籍条項」 李 相勲 【この世界の片隅から】

先日、韓国のあるキリスト教系新聞の記事を読みながら私は二度驚いた。驚いた一つ目の理由は、その記事に知り合いの牧師が登場していたという個人的なものであったが、もう一つの理由は、韓国の主要プロテスタント教団の中に外国籍の牧師を認めていない教団が二つあることを知ったからであった。

その知り合いとは、大韓イエス教長老会(統合/以下、統合派)に所属する韓国華僑3世の譚安維(タン・アンウェイ)牧師である。同氏は、長老会神学大学の大学院を卒業した後、牧師按手の過程で困難に直面した。統合派の憲法の規定上、外国籍者は教会の牧師にはなれないとされていたからである。譚氏の場合、後述する例外規定にもとづいて牧師按手は受けることができたが、現在も教会を担任する牧師とはなれていない。譚氏は現在、同じく華僑3世の徐明寶(シュイ・ミンバオ)牧師と共にソウルにおいてアンダーウッド宣教会という組織を設立し、中華圏からの留学生と移住民を対象とした働きや中韓二重言語による礼拝などを行っている。

統合派の現行憲法を見ると、その21条に牧師や長老など「教会の職員」の区分についての規定がなされている。ここで問題となるのは、2012年の憲法改正時に新設された次の第2項である。「他国の市民権者は職員となることができない。ただし、次の場合は例外とする。①外国人労働者のための宣教の働き人、②教区が認める特別な専門の働きに関わる部門(青少年教育など)、③海外宣教師」。

この規定により、他国の市民権者(外国籍者)は、統合派においては教会の牧会を担当できなくなっているわけである。憲法上の規定としては2012年に初めて登場したが、このような制限はより厳しい形でそれ以前から存在していた。1980年代の初めごろから統合派では、海外(特に米国)に移民し、移民先の国の市民権や永住権を取得した牧師が韓国に戻って牧会を行うことをめぐり議論が生じていた。そのような中、1984年に開催された第69回総会で、「牧師・長老のうち外国の永住権または市民権所持者はすべての公職において視務することはできない」との決議がなされた。

この決議内容は、その後、2000年代に入って「外国の永住権者」を除外する形で、また2012年に憲法の条文として付け加えられた際に先の三つの例外規定を設ける形で多少は緩和されたが、外国籍者が教会を担任できないという状況は現在も続いている。譚牧師の場合、三つの例外規定のうちの二つ目に基づき牧師按手を受けることができたのであった。

アンダーウッド宣教会の譚安維牧師(左端)と徐明寶牧師(右端)=譚安維牧師提供

現在も外国籍者が教会を担任することを制限しているもう一つの教団は、韓国基督教長老会(以下、基長)である。基長では同教団の政治・治理に関する手引書である『政治治理総覧』の1986年度版から、基長所属の教会において外国人は牧師・長老とはなれないとの規定が登場する。その根拠とされたのは、同教団憲法委員会による次のような解釈であった。「『韓国』基督教長老会であるので、韓国国籍以外の人が教会員を代表し教会を治理する牧師や長老となることはできない」

ここには、「韓国」教会は「韓国」籍者によって指導されるべきという狭隘な考えが示されているが、先の統合派の場合も同じような考えのもとに外国籍者に対する制限が設けられたのであろう。

両教団においてこのような「国籍条項」的な制限が設けられた1980年代は、韓国に居住する外国人は多くはなかった。例えば、1985年の統計では、在韓外国人数は3万4180名であり、その多くが韓国華僑であった。そのような状況下にあって、差別的なものであるにもかかわらず、そのような制限が「当たり前」のこととして教会に受け入れられたのであろう。

しかし1990年代に入って在韓外国人数が徐々に増加していくと、そのような社会状況の変化を踏まえ、基長では2010年代の初めに外国籍者への制限を取り払う動きも起こるが、国籍の壁を打ち砕くまでには至らなかった。それだけ国籍へのこだわりが強いということである。

韓国統計庁の2022年7月の統計では、韓国に居住する外国人数は約165万人であり、総人口に占める割合は3.2%となっている。少子高齢化が進む韓国社会では、これから先も外国籍者数が増えることになるであろう。統合派および基長が持つ「国籍条項」も、過去にあったジョークのような規定として苦笑の対象となる日も近いのではないだろうか。

 

李 相勲
 い・さんふん 1972年京都生まれの在日コリアン3世。ニューヨーク・ユニオン神学校修士課程および延世大学博士課程修了、博士(神学)。在日大韓基督教会総会事務局幹事などを経て、現在、関西学院大学経済学部教員。専門は宣教学。

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