【空想神学読本】 もし「一度でいいから」会えるとしたら 『2分の1の魔法』 Ministry 2020年10月・第46号

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 ディズニー&ピクサーの最新作『2分の1の魔法』は、内気な少年イアンが16歳の誕生日プレゼントとして父が母に託した魔法の杖を受け取ることから物語が始まる。「一度でいいから会いたい」誰もがこのような願望を一度は抱いたことがあるだろう。イアンにとっては彼が生まれる前に亡くなった父親こそがその相手だった。

魔法の杖を使えば、父を24時間だけ復活させることができるらしい。そこでイアンは、「一度でいいから会いたい」と夢見ていた父親に出会うため、魔法をかけようとするのだが……。

本作を鑑賞する前、あらすじや予告編に大きな違和感を覚えた。それは、さまざまな家庭環境の子どもたちが目に触れるであろう大人気アニメーションスタジオの最新作が、「魔法を使うことで、会いたかった父親に出会ってハッピーエンド」といった物語なのか? と推測したからだ。さまざまな事情から片親あるいは両親を知らない子どもたちは、世界中に大勢いる。そのような子どもたちに、「魔法によって父親に出会えた幸せな少年」の物語を見せることほど残酷なことはない。現実には魔法など存在しないし、会えない人には会えない。

それだけではない。この作品の原題は「Onward(オンワード)」、日本語にすれば「先へ」や「前進して」といった意味である。普通だったら会うことのできない父親に出会うことが「前進」することならば、実の親に一度も会うことのできない子どもたちは「前に進めずに行き詰まっている」とでも言うのだろうか? これはあまりにも酷すぎる。

しかし、そんな浅はかな筆者の推測よりも一枚も二枚も上手なのが本作だ。イアンにとって何が「Onward」(前に進むこと)だったのかは、ぜひ鑑賞して確認していただきたいのだが、一人の信者としてイアンの願望によく似た「ある願望」について考えずにはいられなかった。

その「ある願望」とは「一度でいいから、神様に会いたい」というものである。信者の中には「(視覚的に)神と出会う」などの奇跡体験をしたことがある方もいるかもしれないが、多くの信者はそのような体験をせずに信仰生活を送っている。そんな中で「神様が目の前に現れてくれれば、信仰が強められるのに……」と考えたことがある人は少なくないだろう。このような考えは信者に限らず、キリスト教に魅力は感じるが信仰には至っていない方々の「次のステップに進む条件」や、キリスト教に批判的な方々の「捨て台詞」としてもしばしば耳にする。

このような願望に対して、聖書の知識があれば「疑い深いトマス」(ヨハネ20:24~29)を用いて教えを説こうとするだろう。復活したイエスを見る機会を逃したトマスは、「復活したイエスをこの目で見ない限り、私は決して信じない」と宣言する。イエスはそんなトマスの目の前に現れてこのように教える。「私を見たから信じたのか。見ないで信じる人は、幸いである」(20:29)。

この箇所は「たとえ神が目の前に現れなくても、信仰を持つことが大切である」といった教えにしばしば用いられるが、私は少し異なる理解をする。それは、「目の前にイエスが現れなくても、私たちは『神の愛によって生かされている』という事実に気付くことを通してイエスの存在を日々味わうことができる」というものだ。つまり、私たちが抱えている悩みの本質は「神が目の前に現れてくれない」という点にあるのではなく、「神が常に私たちと共にいてくださっていることに気付けていない」という点にあるのだ。

私たちに必要なのは、目を閉じて「一度でいいから、神様に会いたい」と夢見ることではなく、目を開けて「ああ、神様はいつも私と一緒にいてくださっていたのか」と気付くことではないだろうか。このようにして初めて、私たちの信仰生活は「Onward」(前進)する。

三野 豊(ジャパンミッションチャンネル)

 ジャパンミッションチャンネル(JMC)=海外留学中ながら「一人でも多くの日本人にキリスト教の素晴らしさを伝えたい!」との思いを抑え切れなくなった神学生が始めたSNS伝道。主にツイッターやユーチューブで活動している。「JMCの活動を拡散することが伝道につながる」と思ってもらるようなコンテンツ作成を目指す。

【作品情報】

妖精たちが暮らす不思議な世界――。美しい大自然を背景に、ユニコーンのような角を持つ美しい白馬のペガサスが空を飛び、色とりどりの尾びれを持つマーメイドたちは自由を謳歌し、神秘的な魔法が満ちあふれている……がそれは、はるか昔の話。科学や技術が進化するにつれ、小人や妖精たちも便利な世界に慣れ、この世から魔法は消えてしまった――。

いまや空を飛ぶのはジャンボジェット機。美しい白馬のペガサスは“野良ペガサス” となり、街の地べたでゴミを漁る迷惑な存在に――。主人公は魔法が消えかけた世界に暮らす魔法を使えない内気な少年イアン。イアンは自分が生まれる前に亡くなった父に一目会うために、好奇心旺盛な兄のバーリーと共に、魔法を取り戻す冒険に出る。かつては魔法があふれていたが、技術が進歩し魔法が消えかけてしまったら? ピクサーの描くワクワクの世界が登場!

■監督: ダン・スキャンロン
■出演: トム・ホランド、クリス・プラットほか
■配給: ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ
■公式HP:https://www.disney.co.jp/movie/onehalfmagic.html
■2020年/アメリカ/103分/カラー

【Ministry】 特集「続・コロナ禍と向き合う――終わらない問い」 46号(2020年秋)

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