日本学術会議「任命拒否」の芦名定道氏が警鐘 〝軍事研究に道開く〟 西南学院大学神学部オンラインで講演会

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 西南学院大学神学部(濱野道雄学部長)は5月24日、「日本学術会議問題をキリスト教からどう見るか」と題する講演会をオンラインで開催した。講師として招かれたのは、昨年9月、菅義偉首相のもと日本学術会議が推薦した会員候補の中で任命が拒否された神学者の芦名定道氏(関西学院大学教授)。拒否された6人の中に同氏(当時は京都大学教授)が含まれていたことから、日本基督教学会(近藤勝彦理事長)、日本宗教学会(鶴岡賀雄会長)をはじめとする関係諸団体が相次いで声明を発表し、「会議の独立性と自律性が損なわれる」「学問の自由を脅かす」ことへの危惧を表明していた。

 渦中にあった当事者の発言に注目が集まる中、芦名氏が語ったのは問題の背景にある第二次安倍内閣以来の政治的な駆け引き、軍事研究に道を開くことへの危機感、そして過去の教訓に基づくキリスト教界への問題提起だった。

国家の統制「信教の自由」に及ぶ
近代化の教訓に学び発想の転換を

任命拒否の理由について菅首相は、「人事に関することで答えを差し控えたい」などと明確な説明をしていない。他の5人がいずれも安全保障法制や「共謀罪」法に反対を表明した学者であることから、芦名氏が「自由と平和のための京大有志の会」「安全保障関連法に反対する学者の会」「立憲デモクラシーの会」の賛同者として名を連ねたことが理由ではないかと報じられていた。

講演の中で芦名氏は、これまでの経緯を振り返りつつ「問題の本質は軍事研究をめぐる攻防。政財界には本格的に軍事研究ができる体制が必要だとの思惑があり、最初から日本学術会議自体がターゲットだった」と指摘。会員人事への介入も今回が初めてではなく、すでに2015年ごろから水面下での攻防は始まっていたという。安保法案、特定秘密保護法、共謀罪などをめぐり、国会で論戦が交わされていた時期とも重なる。

1949年に創設された日本学術会議は、「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明を1950年、同じ文言を含む「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を1967年にそれぞれ発表した。その背景には、科学者コミュニティの戦争協力への反省と、再び同様の事態が生じることへの懸念があった。

さらに2017年の「軍事的安全保障研究に関する声明」は、2015年の防衛装備庁による「安全保障技術研究推進制度」に対し、「将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って公募・審査が行われ、外部の専門家でなく同庁内部の職員が研究中の進捗管理を行うなど、政府による研究への介入が著しく、問題が多い」と指摘し、過去の声明を継承するとの姿勢を改めて確認している。

芦名氏は最近の動向として、当事者6人が任命拒否の理由を記した書類の個人情報開示請求を行ったものの、5月22日に内閣府から「開示請求のあった個人情報を保有していないことから不開示とした」との回答があったことも紹介。「存在しないから開示しない」という論理は、森友・加計問題、「桜を見る会」にも通じると述べた。

自民党政務調査会による「日本学術会議の改革に向けた提言」(2020年12月)は、独立した新たな法人格を有する組織とすべきと提起しているが、すでに国立大学が独立行政法人化のもとで財政と人事に関する権限を大幅に失ったことからも明らかなように、日本学術会議が会員の選出方法として第三者機関による推薦などを導入すれば、軍事研究の拒否は困難になると芦名氏。

後半は近代日本キリスト教の観点から、この問題との接点を解説。「日本の近代化は、富国強兵政策のもとで進められ、学術は最初から軍事研究と共にあった。明治期のキリスト教にとっては『邪教』のイメージを払拭するため、近代化への寄与と共に日本社会にどう受容してもらうかが重要な課題だった。そうした背景から自己規制と忖度が働き、国策としての戦争に対して宗教も学術も有効な批判を行えなかった。戦後日本のキリスト教も日本学術会議も、その反省からスタートしている」

その上で、「東アジアで現実的に国家をどう守るか」という「来たるべき論戦」に向けて、軍事力に依拠する国のあり方から発想の転換が必要と提起し、内村鑑三の「デンマルク国の話」(1911年)を紹介した。

「国の興亡は戦争の勝敗に因りません、其の平素の修養に因ります、善き宗教、善き道徳、善き精神ありて国は戦争に負けても衰えません、否な、其の正反対が事実であります」

「国の実力は軍隊ではありません、軍艦ではありません、将た又金ではありません、銀ではありません、信仰であります」

との記述を引用しながら、戦争とは別の手段で隣国と共存し、負の連鎖から脱却することが国を守る最善の道ではないかと述べた。

「ナチスが最初共産主義者を攻撃した時」で始まるドイツの神学者マルティン・ニーメラーの詩にも言及し、「日本の近代史において国家が学問を統制するという動向は、次に国民全体に向けられることを示している。一つの自由が脅かされれば、他の自由も脅かされる。もし、日本のキリスト教がこの問題に対して無関心であるならば、いずれ、国家の統制は『信教の自由』に及ぶ」と警鐘を鳴らした。

最後に、日本学術会議の問題を他人事と捉えず、軍事研究に賛同しない、少なくとも侵略を肯定しない「平和」という共通の目的で対話する他宗教や非宗教者、さらには日本在住で外国籍を持つ人々との「ネットワークを広げること」、日本会議をはじめ改憲を志向する勢力との論争に備えて「平和運動の足腰を強くすること」の2点を提言して講演を結んだ。

学術会議への人事介入めぐり NCC、日キ教会靖国神社問題特別委が声明 2020年10月8日

 






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