【宗教リテラシー向上委員会】 尼僧抜きの寺院論? 丹羽宣子

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日本各地の寺院のほとんどは男性住職を中心とした家族的紐帯によって維持されている。近現代の日本仏教では寺院運営はいわば家業であり、また稼業でもあった。しかし過疎化と人口減少社会の到来によって檀家は急減し、寺院収入減による経営困難、寺族の生活苦を伴って、布教拠点としての寺院はかつてない危機的状況に直面している。

過疎化が社会問題化して以降、宗教専門紙にはさまざまな論説や議論が多数掲載されてきた。宗教情報リサーチセンター(RIRC)の宗教記事データベースで確認すると、もっとも古い時期の収録データとして1988年4月27日付「中外日報」に「沈みつつある船を傍観の状況」との見出しが添えられる論考「過疎化の現状と伝統仏教の布教(上)」がある。近年では2015年3月20日付「中外日報」に「宗門の過疎対策が叫ばれ、かなりの時間がたった。効果のある施策が出ないままに時間が過ぎている。坐して死を待つわけにはいかない」との曹洞宗宗議会における発言を伝える記事がある。

「沈みつつある船」と約30年前に記された過疎化と仏教寺院の問題の現状について「坐して死を待つわけにはいかない」と叫ばれるが、RIRCの元・現役研究員も編集・執筆している『岐路に立つ仏教寺院――曹洞宗宗勢総合調査2015年を中心に』(相澤秀生・川又俊則編著、法蔵館、2019年)から興味深いデータを紹介したい。

過疎化による寺院維持困難と後継者不足問題は盛んに論じられてきたが、意外なことに、実際には過疎地においても曹洞宗の寺院数はおおむね50年前から維持されてきたというのだ(36~38頁参照)。人口減退期突入により今後は寺院数の縮小は避けられないだろうが、少なくとも近年までは「世襲による寺院維持というシステムにより、教線は維持されてきた」(246頁)とされる。

一方で、寺院運営困難と後継者不足の問題に先に直面し、維持できなかった人や寺があったことは指摘しなければなるまい。曹洞宗の尼僧たちである。

曹洞宗は昭和30年代までは全教師数の約1割が尼僧であり、尼僧の活躍が目立つ教団であった。しかし現在では曹洞宗はもっとも尼僧比率の低い教団となっており、わずか3%にとどまっている。曹洞宗の尼僧は特に非婚の意識が高いとされ、尼寺は養女を得ることで継承されてきた。そして尼寺の多くは檀家をほとんどもたず、経済基盤が弱い。経済的に自活できず、後継者を新たに得ることも難しく、姿を消していった尼・尼寺が少なくなかったことは想像に難くない。

伝統仏教教団の存続が議論される時、多くの場合、男子世襲制のほころび、檀家減少に連動する男性住職とその家族の生活の問題が論点となる。ここにおいて、仏教教団におけるジェンダーの非対称性が浮き彫りになる。

昨今では住職夫婦の娘が寺を継ぐケースも僅かではあるが増えつつある。彼女たちの存在を寺院継承概念の拡大を促すものとして肯定的に紹介する向きもあるが、「息子でなければ娘を」であるならば、それは寺院における家族主義の強まりと見ることができよう。

日本社会において寺院は家業/稼業であり、だからこそ寺院は地域に根をおろしながら仏の教えを安定的に伝えてきた。このことは否定できない事実だとして、ジェンダーの非対称性と家族主義の問題は棚上げにしてはいけないだろう。仏教は一切の平等を説き、そして出家主義の宗教であるのだから。

丹羽宣子(宗教情報リサーチセンター研究員)
にわ・のぶこ 1983年福島県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。國學院大學客員研究員、立教大学兼任講師ほか。著書に『<僧侶らしさ>と<女性らしさ>の宗教社会学――日蓮宗女性僧侶の事例から』(晃洋書房)。

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