コロナが破壊した上部のクリスマス 【アメリカのコロナ病棟から 関野和寛のゴッドブレス】第10回

12月25日、ここアメリカではクリスマスシーズンはホリデーシーズンと呼ばれ、クリスチャンでない人々でも皆が休暇を取り、家族団欒の時を過ごす。同僚のチャプレンたちに休暇をとってもらい、私はイスラム教のチャプレンと共に、このホリデーシーズンに入院生活で苦しむ人々をひたすら訪ね歩いていた。特にコロナ室でクリスマスを過ごさなくてはいけない人は、この上ない孤独の中にいる。私は自分が担当のコロナ患者全員を訪ねた。隔離病棟の中で誰とも会えない中、皆が心から私を歓迎してくれた。

だが、クリスマスにこうしてコロナ室を訪ねている自分に満足している嫌らしさは一瞬で破壊された。急にポケベルが鳴り、救急病棟に呼び出される。一人の女性がベッドの上で拘束されながら叫び声をあげている。「彼女の話を聴いて落ち着かせてくれ」と看護師に言われ、私は病室に入る。「急に訪ねてごめんなさい。もしよろしければ話をさせてくれませんか?」と問いかける。「あなたは誰?」と問われ「この病院で人々の心のケアをするチャプレンです」と答えると、「アジア人のあなたに何が分かるの⁉︎ 出て行って!」と怒鳴りつけられた。

©緒方秀美

どのような感情でも受け止める覚悟はあったつもりだが、いきなりアジア人ということを馬鹿にされ、私の心に怒りの感情が宿った。「分かりました。気分を害してごめんなさい。帰ります」。冷静に返答したが、はらわたはすでに煮え繰り返っていた。クリスマスなんと気分の悪い夜だろう。さっきまでコロナ病棟の患者さんたちと手を取りあい、祈っていた喜びが吹き飛ばされた気がした。

自分のオフィスに帰り、なんとも言えない後味の悪い気持ちを抑えるために、コーヒーを淹れてパソコンのスイッチを入れる。すると病棟の看護師からメールが来ていた。「さっきは来てくれてありがとう。気分を害されたかもしれません。実は数年前に両親を交通事故で同時に失い、そして、その年のクリスマスに結婚相手が殺人事件で殺されてしまい、トラウマと精神疾患に苦しみ、毎年クリスマスに自殺未遂をしてしまうのです。また何かありましたら協力してください」

嘘のように思うだろう。この連載は病院の患者さんのプライバシーのため、登場人物や病名を再構成している。今回のストーリーもそうしている。だが、はっきり言えば実際はもっと苦しい現実がそこにはある。

言葉なんて出てこない。神も仏も救いも何にもない。最悪の不条理が、その人の人生におそいかかったのだ。世界と目の前の人間すべてが信じられなくなるのは当然だ。メリー・クリスマス、ハッピー・ホリデーでも何でもない。この人にとっては絶望が再生される最悪な一夜なのだ。そんなことをこれっぽっちも知らずに、この人を受け止めることができなかった自分を恥じた。目を落とすと日本から送られてきたクリスマスカードが1枚。誰にも相手にされず、行き場がなかったマリアが家畜小屋のような場所でキリストを産み、どこか悲しげ微笑んでいる絵だ。絶望に苦しむその人を受け止めきれなかった私は、この社会でキリストを無視し、キリストが生まれる場所を与えなかった一人でもあるのだ。

幸せで楽しいクリスマスなんて、最初からなかったのかもしれない。新型コロナウイルスは残酷なほどに私たちの日常を破壊する。けれども同時に上部だけのクリスマスをも破壊し、本当のクリスマス、悲しみに満ちた現実を浮かび上がらせているのかもしれない。メリー・クリスマス、ホリデーシーズン? 人生は終わらない不条理の連続。でも諦めずにそれでも今日、そこに消えそうな灯火をともしにいくだけだ。


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空気は読まない、時代の波にも乗らない 【アメリカのコロナ病棟から 関野和寛のゴッドブレス】第1回

 

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