12 早天祈祷会
その年の冬は雪が多かった。
そのためか日曜の礼拝に、また水曜の祈祷会、各々の諸集会に集まる度(たび)に、私たちの間では、例年になく降り積もっているこの雪のことが話題にのぼった。
「こんなに降るだけー、バスが遅れてなかなかくらへん。だけーもう歩いてきましただが」
道路はどこも、スリップを用心してのろのろ運転の車で渋滞がひどく、普段バスや車を使っている人も、よほど遠くの人でない限りは歩いて教会にくることになる。
「あれえ、またこんなに積もっとるで。はようせんと通れんようになるが」
集会の始まる前にスコップで雪かきをして広げていた玄関先も、集会が終わってみると、また雪がいっぱいに降り積もっている。
「こりゃあ湿布でも貼っておかんと、腰が痛うて今度からは教会にこれんなあ」
私たちはこんなことをいいながら、せっせと雪かきに精を出していた。
そんなある日──。
「僕、前からずっと考えとったんだけど、教会はやっぱり祈りってのが大切だと思うんだが。それも1日の始まり、朝の祈りが。そんで明日からここで、早天祈祷会ってのを始めようと思うんだけど、有志だけで」
といい出す人があらわれた。
それはある集会後、いちばん遅くに帰り支度をしていた数人の信徒に向かっていわれた言葉だったが、皆は返事に詰まってしまった。時は2月、外は雪、温度は朝晩、氷点下にまで下がっている。
「明日からって、何時くらいから」
洗礼を受けて3カ月の小枝ちゃんが、おそるおそる尋ねた。
「6時半ってのはどうかなあ」
そんないきさつで始まった早天祈祷会だったが、この5、6人で集っている朝の会に、杉谷先生は欠かさず出席をした。
「教会を使わしてもらっとるだけ、先生に断らんわけにいかんし、ただ、やっとりますっていう報告の気持ちでいいに行ったのに、こうして毎朝出てきてかあさって……」
私たちはいたく感激した。
出席者の中には、昼間働きながら夜間高校に通っている者もあった。多恵ちゃんと呼ばれているその人は、教会までの片道3キロの雪道を、ひとりで聖書を抱えて歩いてくる。
「がんばっとるなあ」
教会と同じ町内に住んでいる前野さんが感心していう。
「多恵ちゃんはいちばん遠い所に住んどるのに、いちばん早うくる。僕はいちばん近い所に住んどって、いちばん最後にくる」
「何いっとるだあ」
照れ屋の多恵ちゃんは早口に応える。
「前野さんは夜が遅いんだけ、そんなに早くは起きれんわいな」
「そうだで」
先生がつづきを引き受けた。
「前野さん、仕事が忙しいのに、毎朝ようやっとんさるが。それに教会にいちばん近いとこに住んでるのは、わし。わしがいちばんぎりぎりまで寝とるの」
牧師館は教会の隣にあった。私たちは声をたてて笑い合う。でも、先生が前の晩どんなに遅くまで起きていたか、体調がその朝どんなふうになっているのか、本当のところを知るものは誰もいない。(つづく)