【あっちゃん牧師のおいしい話】第10回 教会のかおり 齋藤篤

私たちは神に献げられるキリストのかぐわしい香りだからです。
新約聖書 コリントの信徒への手紙二2章15節後半(聖書協会共同訳)

教会での礼拝が終わり、教会の役員会に先立って、役員の方々がお昼ごはんを食べていたときのことです。役員のひとりであるTKさんが「しかし、いろんな匂いがただよっているねぇ」とひと言。役員の半分はカップラーメンを食べていましたので、いろいろな味のカップラーメンの香りが混然一体となって部屋を満たしていたようなのです。食べているときには全然そんなことに気付きません。ひと足はやく食事を終えていたTKさんだからこそ、感じた匂いなのかもしれませんね。醤油味、とんこつ味、みそ味、僕はサワークリーム味でした。

昨年から始まった新型コロナウイルス禍。これによって、教会から明らかにひとつ消え去ってしまったものがあります。それは「食べ物の匂い」かもしれません。多くの教会では、礼拝後に教会で準備されたさまざまな料理をお昼ご飯として食べているところが多いのではないかと思います。「愛餐(あいさん)」と名付けられたその食卓は、ただのごはんではなくて、隣同士の人たちと会話を弾ませながら、わいわいと楽しむことのできるすてきな団らんのひと時だったのではないでしょうか。まさにキリストの愛の言葉を礼拝で聞いたものが、その愛を携えながらお腹を満たすという、教会ならではの文化の象徴が食べ物の匂いであって、「教会のかおり」と言っても大げさではないと僕は思うのです。

そういえば、僕もそんな「教会のかおり」に誘われて、教会の門をくぐった一人でした。大学2年の頃でした。いろいろなことに疲れてしまい、下宿の割に近所にあった教会の礼拝に参加したときのことでした。礼拝が終わってからホールで出された昼食は、カレーライスでした。1杯100円。貧乏学生にはなんともありがたい値段とボリューム、そして一緒に食べた方々との会話が、当時の僕にとってなんと嬉しかったことか。調子に乗って2杯も3杯も食べて、その後眠くなって教会の和室で昼寝をして、夕方近くになると下宿に戻るという、なんとも図々しい教会ライフを過ごしていたわけです。そのせいか、僕のなかでは今でも、教会のかおりというとカレーライスのあの匂いとどうしてもリンクしてしまうのです。

でも、やっぱり思うんですよね。そのカレーライスは単なる空腹を満たす食い物という役割だけを僕に与えたのではなかったのだと。あの時一緒に食卓を囲んで、悩みや人の話も聞かないで一方的にまくしたてていた僕の話に、耳と心を傾けてくれていた教会の方々からは、明らかにキリストのいい香りが漂っていたんだなあと。でなかったら、僕は今の今まで教会と関わることもなかっただろうし、牧師になることもなかったと思うんです。明らかにキリストの香りをただよわせておられた教会の方々そのものが「教会のかおり」だったのだと。そのときに出会ったOK教会の方々とは、今でも親しいお付き合いをいただいていますが、あのころの悪臭を放っていただろう僕のことを思い出すと、なんとも恥ずかしいやら、申し訳ないやら。でも、そんなこんなであの時から25年。キリストの香りをいただき続けている自分自身を顧みては、ただただ感謝でしかないなぁと思うのです。

さて、現在我が家に今滞在している友人に「何が食べたい?」と聞いたら、その彼は「カレーが食べたいです」と即答。聞いてみると、365日カレーを食べてもいいくらいのカレー好きなんだとか。実は、その前に僕たち夫婦で食べようと、タイのグリーンカレーをつくって友人に食べると勧めたところ、彼にとってはグリーンカレーの辛さはちょっと苦手なんだとか。日本で普通に食べられている、あのカレーが食べたいということなので、そう言われちゃあ作らねぇわけにゃあいかねぇじゃねぇか!ということで、我が家秘伝のカレーをつくることに。

と言っても、秘伝なんてものは何もなく、①豚肉をたっぷりと入れるべし!②甘口のルーを使うべし!③具は大量の玉ねぎのみを使うべし!④隠し味になにか甘みを加えるべし!と、この4か条を守るというのが我が家流カレーというわけです。

丁度、スーパーには豚の軟骨肉(沖縄でいうソーキ肉)が売られていたので、これをトロトロになるまで煮ることからはじまりました。軟骨はちょっとやそっとでは柔らかくなりません。弱火でコトコト煮ること4時間。軟骨部分はプルプルのゼラチン質に。このトロトロ感が、カレーのルーとバッチリの相性を発揮してくれます。ついでに冷蔵庫にあった鶏もも肉も投入。豚と鶏の競演、ここにあり!です。

一方で玉ねぎを4個、フライパンで焦げ目をつけながら炒めていきます。この焦げ目がカラメルの役割を果たしてくれて、カレーの味に深みを加えます。飴色までとはいかなくてもある程度炒めたら鍋に投入してしばらく煮たのち、市販の甘口カレールーを入れてしばらく煮込み、最後にドイツ製のてんさい糖シロップを隠し味に加えて、カレーの完成!

ご飯を炊く前に、ちょうど冷蔵庫にラーメンの生麵がひと玉あったので、それをゆでたところにカレーをかけていただきました。うーん、我ながらうまい!その後、ごはんを炊いて友人に食べてもらったら、小食を自称する彼は、おかわりして何回も食べてくれましたとさ。

今回はこれまで。また「おいしい話」を一緒にいただきましょう!

 

齋藤篤

齋藤篤

さいとう・あつし 1976年福島県生まれ。いわゆる「カルト」と呼ばれる信者生活を経て、教会に足を踏み入れる。大学卒業後、神学校で5年間学んだのち、2006年より日本キリスト教団の教職として、静岡・ドイツの教会での牧師生活を送る。2015年より深沢教会(東京都世田谷区)牧師。美味しいものを食べること、料理することに情熱を燃やし、妻に料理を美味しいと言ってもらい、料理の数々をSNSに投稿する日々を過ごしている。

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