静岡地裁による再審無罪の判決を受けて日本カトリック司教協議会会長の菊地功氏(カトリック東京大司教)は9月26日、「パウロ袴田巌さんの再審無罪判決にあたって」と題する談話を発表した。
談話では「長年にわたり自らの潔白の訴えをくじけることなく続けられた袴田さんの苦悩と苦しみ」「支えられたご家族をはじめ多くの支援者の方々の連帯の熱意に、心から敬意を表し」た上で、袴田さんの訴えから「真実と人権を護ることの重要性を学び、同時にいのちを奪う死刑という処罰の是非について、あらためて人間の尊厳を護る立場から声を上げたい」と表明。
「たとえどんなに重い罪を犯した人であってもその人格の尊厳は決して失われないと固く信じ」「『殺してはならない』と命じられた主イエスの戒めを受け止め、『人格の不可侵性と尊厳への攻撃』である死刑を許容することはできないと教え」、「全世界で死刑が廃止されるために取り組む」カトリック教会として「今一度、日本の社会に死刑制度の是非を考えることを呼びかけたい」と訴えた。
談話の全文は以下の通り。
パウロ袴田巌さんの再審無罪判決にあたって
主イエス・キリストにおけるわたしたちの兄弟パウロ袴田巌さんに対し、本日9月26日、静岡地方裁判所によって再審無罪の判決が出されました。長年にわたり無実を訴え、また死刑えん罪という著しい不正義に直面してこられた袴田さんに、半世紀以上の長い年月を経て、ようやく無罪が言い渡されたことを心から歓迎し、神に感謝したいと思います。
長年にわたり自らの潔白の訴えをくじけることなく続けられた袴田さんの苦悩と苦しみ、その訴えを支えられたご家族をはじめ多くの支援者の方々の連帯の熱意に、心から敬意を表します。わたしたちは袴田さんの長年にわたる無実の訴えから、真実と人権を護ることの重要性を学び、同時にいのちを奪う死刑という処罰の是非について、あらためて人間の尊厳を護る立場から声を上げたいと思います。
カトリック教会は、人間のいのちには神が自らの似姿として人を創造することで尊厳が与えられていると信じ、その始まりから終わりまで、一つの例外もなく尊重されなくてはならないと訴えます。イエス・キリストが示した福音の光によって、たとえどんなに重い罪を犯した人であってもその人格の尊厳は決して失われないと固く信じています。「殺してはならない」と命じられた主イエスの戒めを受け止め、「人格の不可侵性と尊厳への攻撃」である死刑を許容することはできないと教えるだけでなく、全世界で死刑が廃止されるために取り組むという決意を表明しています(『カトリック教会のカテキズム』2267、ローマ教皇フランシスコの回勅『兄弟の皆さん』263以下参照)。
たとええん罪であったとしても、一度死刑によって人間のいのちと尊厳が奪われてしまえば、それを取り戻すことはできません。袴田さんの再審無罪という判決を機に、今一度、日本の社会に死刑制度の是非を考えることを呼びかけたいと思います。
長年にわたってえん罪による死刑囚として人権を制限され、苦しみの人生を強いられた袴田さんに、いつくしみ深い神がそのいやしの手を差し伸べることを信じながら、人間の尊厳を護るために、声を上げ続ける決意を、あらためて心に刻みます。
2024年9月26日
日本カトリック司教協議会会長
タルチシオ 菊地 功