性的虐待をめぐり、フランシスコ教皇が異例の全信者宛て書簡「小さな人々を見捨ててきた」

 

米ペンシルベニア州最高裁判所は14日、同州のカトリック教会で過去70年にわたり、300人以上の聖職者が少年少女への性的虐待を犯し、被害者は1000人に及ぶという大陪審の調査報告書を公表した。

ただ、虐待を受けた子どものデータの中には失われたものもあり、恐れのため被害を報告できなかったケースもあるので、実際の被害者は数千人規模に上る可能性が高いという。また、教会が虐待の告発を受けても警察に通報せず、加害者を転任させるなど、事件を隠ぺいしてきたことも指摘している。大陪審は、この10年の間に性的虐待をした疑いがある司祭二人を起訴したが、その他の事件はすでに時効になっており、リストアップされた聖職者の約100人は死亡、その他も引退したり行方不明になったりしている。

報告書は、同州内の全8教区のうち6教区(アレンタウン、エリー、グリーンズバーグ、ピッツバーグ、スクラントン、計170万人のカトリック信者がいる)における児童の性的虐待について、目撃者数十人の証言と約50万ページに及ぶ教会内部文書を1年半にわたり調査した結果をまとめたもの。そこには、聖職者が子どもを性的に虐待した生々しい内容が書かれている。

17歳の少女が司祭によって妊娠したので、その司祭は結婚証明のサインを偽造し、数カ月後に離婚。すべてが露見した後でも、聖職にとどまることを許されていた。

「15歳の少年が自ら性的関係をせまり、司祭を実質的に誘惑した」と教会が発表し、その司祭は後に、複数の少年とSMプレイのため接触していたことを自白。

扁桃腺(へんとうせん)除去手術を受けた7歳の少女は、見舞いに訪れた司祭にレイプされた。

ある子どもは裸になって、キリストが十字架にかけらたれたポーズをするよう言われ、その様子を写真に撮られた。そして、十字架がついた金の首飾りを与えられたが、それは他の加害者の司祭に、少年が虐待対象になったことを知らせるためのものだった。

司祭に繰り返し虐待を受けたある少年は、背中に慢性的な問題を抱え、鎮痛剤中毒になった後、過剰摂取が原因で死亡した。

これ以外にも世界各地で司祭による性的虐待が表面化しているが、これが国際的問題となった発端は、米ボストンでの性的虐待の実態が2002年にメディアで大々的に報じられたこと。プロテスタント牧師によるセクハラの問題もあるが、カトリックの司祭は妻帯が認められていないため、それが児童への性的虐待という問題につながっている可能性もある。

フランシスコ教皇(写真:Jeffrey Bruno)

これを受けて教皇フランシスコは20日、「神の民への書簡」を発表した。全世界12億人のカトリック信者に宛てた書簡はきわめて異例だ。

「一つの部分が苦しめば、すべての部分がともに苦しむのです」(1コリント12:26)という聖句を引用し、「被害者とその家族の痛みはわたしたちの痛みでもあります」と述べた。また、「この残虐行為を糾弾し、死の文化を撲滅するために力を合わせる」、「わたしたちは小さくされた人々をないがしろにし、見捨ててきました」とも明言した。そして、教会が彼らの苦しみに耳を傾け、「法的に必要なあらゆる仲介を後押ししながら、真理のうちに歩むよう」、断食と祈りを求めた。

雑賀 信行

雑賀 信行

カトリック八王子教会(東京都八王子市)会員。日本同盟基督教団・西大寺キリスト教会(岡山市)で受洗。1965年、兵庫県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。90年代、いのちのことば社で「いのちのことば」「百万人の福音」の編集責任者を務め、新教出版社を経て、雜賀編集工房として独立。

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