【新刊レビュー】『日本キリスト教歴史人名事典』 ほかの大事典と比べてみた

日本キリスト教歴史人名事典』(教文館、以下『人名事典』)が8月25日に刊行された。日本キリスト教史に登場する、あらゆる教派の人物およそ5150人の項目が掲載されている。日本にキリスト教が伝えられた16世紀から現代に至るまで、5世紀にわたる日本のキリスト教史変遷の全体像が理解できる事典だ。

キリスト教のさまざまなことについて調べられる大型事典といえば、『キリスト教大事典』(同、税別価格3万5000円)がある。しかし、これは初版が1963年の発行だ(68年改訂、70年改訂新版)。すでに半世紀以上前ということになる。

ちなみに、今回の『人名事典』と比べると、判型はB5判と同じだが、ページ数は1600ページに対して、新しい『人名事典』が984ページ。半分くらいのボリュームになっている。

さまざまなキリスト教事典・辞典を比較する上で、一つの項目にしぼって、それを見比べてみると違いが分かりやすいのではないだろうか。そこで「三浦綾子」の項目を見てみたい。

『キリスト教大事典』の初版発行の昭和38年というと、朝日新聞社による大阪本社創刊85年・東京本社75周年記念の1000万円懸賞小説公募があった年で、三浦綾子の入選作「氷点」が朝日新聞朝刊に連載開始されるのは、翌年の12月から。だから、その頃はまだ、三浦綾子が日本の歴史に名を残すようなクリスチャン作家になるとは誰も考えていなかっただろう。

88年に出された『日本キリスト教歴史大事典』(4万5000円、以下『歴史大事典』)は、この『人名事典』の元になったものだ(『人名事典』も、編集が同じ日本キリスト教歴史大事典編集委員会となっている)。

「監修者のことば」で鈴木範久氏がこう述べているとおり。

この事典は、『日本キリスト教歴史大事典』(1988年刊)に収録された人名に補訂を加え、さらに約670名を増補、新たな人名事典として刊行するものである。

やはり判型はB5判と同じで、ページ数は1736ページ。新しい『人名事典』が984ページとほぼ半分になったのは、日本キリスト教の歴史の中でも、項目を人名だけにしぼったからだ。

(教文館のホームページから)

たとえば、「三浦綾子」が載っている『人名事典』の764ページは「み」の最初のページなのだが、『歴史大事典』の「み」の最初である1347ページでは、美以教会、美以美教会雑誌会社、美以美神学校、三井道郎、三井楽教会、三浦按針、三浦アンナ、三浦豕という項目がある。それが『人名事典』では、美以教会、美以美教会雑誌会社、美以美神学校、三井楽教会という項目がなくなって、三井道郎、三浦綾子、三浦按針、三浦アンナ、三浦豕と人名だけになり、しかも新しく入った「三浦綾子」以外は『歴史大事典』とほぼ同じ文章内容だ。

ちなみに『歴史大事典』が刊行される前年の1987年、三浦綾子は、恩人である白洋舍創業者の五十嵐健治氏の伝記『夕あり朝あり』、同じく有名な榎本保郎牧師の伝記『ちいろば先生物語』などを精力的に発表している。『歴史大事典』の編集方針では、人名について掲載するのは86年末までに亡くなった人物とされているので、99年に召天する三浦綾子はまだ載っていない。一方、『人名事典』の編集方針は、2010年までに亡くなった人物なので、「三浦綾子」が掲載されているのだ。

三浦綾子が亡くなる5年前の1994年に刊行された『世界・日本キリスト教文学事典』(同、7000円)はひとまわり小さいA5判で772ページ。これには「三浦綾子」の項目が入っている。『人名事典』の解説は800字程度で、ライフストーリーが主体だが、『文学事典』は字数がその倍以上あり、作品世界も紹介されている。項目執筆は水谷喜美子で、『人名事典』では久保田暁一だ。

2002年に出された『岩波キリスト教辞典』(岩波書店、7500円)では、「三浦綾子」の項目は宮内淳子が執筆しており、簡潔にまとめられて400字ほど。『人名事典』での字数の半分くらいだ。

それぞれの入信と洗礼の場面の描写は次のとおり。

挫折感と病苦に悩んでいたが、療養所で再会した幼なじみの前川正によりプロテスタント信仰に導かれ52年に受洗。(『岩波キリスト教辞典』)

48年8月、幼なじみの結核療養中の前川正が訪れて、交際が始り、千数百通に及ぶ愛の手紙(「生命に刻まれし愛のかたみ」73)に広がってゆく。コリント第一の手紙13章にいう「最も大いなるもの」を伝えようとする正に、「この人の信ずるキリスト」を(「道ありき」69)尋ねたいと思う。52年5月脊椎カリエスの診断下る。7月5日札幌医大病院において小野村林蔵牧師より病床受洗。この時「愛の鬼才」(83)のモデル西村久蔵が洗礼盤を持った。(『世界・日本キリスト教文学事典』)

48年12月結核療養中の幼なじみの医学生前川正(ただし)と再会。前川正は誠実で熱心なクリスチャンであり、綾子は前川の深い愛と人間性を通して、信仰を求めるに至った。52年2月札幌医科大学附属病院に入院、キリスト者西村久蔵の見舞いと励ましも受け、同年7月5日札幌北一条教会の小野村林蔵牧師により病床で洗礼を受けた。(『日本キリスト教歴史人名事典』)

『日本キリスト教歴史大事典』以降で新たに入れられたのは、三浦綾子のほかに作家では井上ひさしや遠藤周作、野村胡堂、福永武彦など。神学者では北森嘉蔵、小山晃佑、高橋三郎、山田晶。歴史家の土肥昭夫や結城了悟。建築家の丹下健三。画家の小磯良平や平山郁夫。漫画家の田河水泡や長谷川町子。作詞家の阪田寛夫や浜口庫之助。教皇のヨハネス・パウルス2世や枢機卿の白柳誠一。そのほかに杉原千畝や速水優、マザー・テレサや山本七平もある。

いかがだろうか。『歴史大事典』をすでに持っておられる方は、内容が大部分かぶることもあり、また値段がはるだけに躊躇(ちゅうちょ)されるかもしれないが、日本のキリスト教史を学んでいたり、そうした原稿を書いたりする人はぜひ手もとに置いておきたい1冊だ。

鈴木範久:監修 日本キリスト教歴史大事典編集委員会:編
日本キリスト教歴史人名事典
2020年8月25日初版発行
教文館
特別定価 4万2000円(税別、2020年11月30日まで)

 






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