上野の「東京都美術館」で、20世紀美術を代表するフランスの画家、アンリ・マティスの回顧展「マティス展」が開催されている。会期は8月20日まで。
伝統的な写実主義と決別し、作家の感覚的な表現に重きを置いた「フォーヴィスム(野獣派)」の中心人物として知られ、その豊かな色彩感覚から「色彩の魔術師」とも呼ばれるアンリ・マティス。20歳を過ぎて画家を志し、84歳で亡くなるまでの生涯を、鮮やかな色彩と光の探求に捧げた。
本展では、世界最大規模のマティス・コレクションを誇るパリのポンピドゥー・センター/国立近代美術館の全面協力のもと、「1章 フォーヴィスムに向かって」から、「8章 ヴァンス・ロザリオ礼拝堂」までの8章構成で、絵画や彫刻、デッサン、版画、切り紙絵など、日本初公開作品を含む約150点を展示する。
裕福な穀物商一家に生まれたマティスは法律家の道を歩んでいたが、20代半ばで画家になることを決心。1890年にパリ国立学校の教授で、聖書や神話を題材にした作品で知られる象徴主義の画家、ギュスターヴ・モローのアトリエに出入りを許されるようになる。当時、さまざまな芸術に興味を持つようにすすめることで有名だったモローの指導方針は、弟子たちの自由な感性を引き出した。同門には20世紀を代表する宗教画家、ジョルジュ・ルオーがいる。
1904年夏、新印象派の中心人物、ポール・シニャックの招きでサントロペに赴いたマティスは、その影響で点描の技法を取り入れた《豪奢、静寂、逸楽》に取り組む。この直後に生み出されたのがフォーヴィスムだ。
その後もマティスは、生涯に渡り多彩な技法に挑戦し続けた。初期の作品から順を追って観ていると、同じ画家によるものとは思えないような作品も多く、常にマティスが冒険的に、自己と向き合いながら果敢に制作に取り組んでいた様子が感じ取れる。
自身が「自分が選んだ仕事ではなく、運命によって選ばれた」と語るヴァンス・ドミニコ会ロザリオ礼拝堂を制作するきっかけとなったのは、1941年に大病のため手術を受け、寝たきりで制作を行っていたマティスの介護のために訪れたモニク・ブルジョワとの出会いだった。
やがてドミニコ会に入会し、ジャック=マリー修道女となったモニクと再会したマティスは、戦禍で礼拝堂を失った尼僧らが新たな礼拝堂の建設を希望していることを伝えられる。マティス自身が以前から「大型コンポジションを定めてみたい」と望んでいたこともあり、1948年に建築家オーギュスト・ペレの助力を得てプロジェクトを始動。4年の月日をかけて、建築、装飾、家具、オブジェ、典礼用の衣装など、礼拝堂を彩るすべてを手がけた。
本展では《ヴァンス礼拝堂、ファサード円形装飾〈聖母子〉(デッサン)》や《告解室の扉》の下絵をはじめ、ヴァンスの内部や制作中のマティスの様子を伝える豊富な資料とともに、装飾や典礼用の衣装のデザインのためにマティスが残したドローイング類などを展示している。
さらに、本展のために撮りおろしたロザリオ礼拝堂の4K映像では、ヴァンスの風景とともに、切り紙絵をモチーフに、黄(太陽)、青(空)、緑(自然)の3色でデザインされたステンドグラス《生命の樹》から堂内に光が射し込む様子や、壁面に大きく描かれた《聖ドミニコ》、《聖母子》《十字架の道行》など、通常は撮影禁止の礼拝堂内部の様子を観ることができる。
マティスが目指したのは「神を信じているかどうかにかかわらず、精神が高まり、考えがはっきりし、気持ちそのものが軽くなるような場所」。南仏・ヴァンスの街はずれに佇むロザリオ礼拝堂は、完成から60年以上経った現在も、信徒をはじめ多くの人に愛され、親しまれている。
「マティス展」
会期:2023年4月27日~8月20日
会場:東京都美術館 企画展示室
開室時間:9:00~17:30(金曜は9:00~20:00)*入場は閉室の30分前まで
休室日:月(ただし5月1日、7月17日、8月14日は開室)、7月18日(火)
観覧料:一般2200円/大学生・専門学校生1300円/65歳以上1300円/高校生以下 無料
※日時指定予約制
問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
展覧会HP:https://matisse2023.exhibit.jp/