120年以上の歴史をもつ雑誌『サインズ・オブ・ザ・タイムズ』の休刊を経て、セブンスデー・アドベンチスト(SDA)教団が運営する福音社がその命運をかけ4年越しで完成させたオリジナル漫画に注目が集まっている。402ページの超大作『天界のリベリオン』に携わった2人の原作者と作画担当者に話を聞いた。
■ 高橋徹(原作)
本作は聖書物語を釈義的に解説することではなく、ベースとなるメッセージを伝えることを主眼としています。そのため、聖書には書かれていない創作の部分もあり、厳格に聖書の解説として見たときには意見が割れるような描写もあります。
例えば、天使たちの執り成しの祈りの場面、最後のルシファーがキリストに襲いかかるところでバリアが張られる場面、天使が掃除をしている場面、天使に性別があるように見えるキャラデザなど、多くの描写においてグレーゾーンを攻めているとも言えるでしょう。
制作の過程で細かい釈義については片目をつぶらざるを得ない部分がありました。天使を描き分けるためには、ある程度の性差が見える必要がありましたし、キリスト教の教えを伝えるためには執り成しの祈りの場面が必要でした。
ただ教理的に、また聖書釈義的に明らかな誤りを描写しないように注意を払っています。例えば、天使は一般的には中性であるか、もしくは男性的な姿で描かれますが、聖書的に天使が中性もしくは男性のみであるとは断言できません。しかし、イエス・キリストが被造物の天使であるかのように、また父なる神よりも下位の存在であるかのように見えることは明らかな誤りです。
そのため、サタンの追放の場面では、王としてのキリストの姿として天使たちがひざまずく場面を入れ、また「全能の神」であり、「全宇宙の王」であることをセリフに入れて表現しました。
また、キリストの描写でのこだわりは「御子」と天使たちに呼ばせたことです。「御子」は、三位一体の位格を指すことから、天での雰囲気に合う名称でした。それに加えて、救いの計画が天地創造の時からあったことを印象づける名称となりました。
このように、聖書釈義的にはある程度、明らかな誤りではないのであれば、片目をつぶりつつ、教理的には正確な描写に努めています。
■ののまる(原作)
私の使命は「試練や逆境と思われる状況の中でも、面白みを見つけて人生を楽しみやりとげることで、神様や宇宙の素晴らしさを体現する人を増やすこと」です。これは、漫画家になりたかった夢を諦めた小学生時代の嘆きから生まれた使命です。20年の時を経て、「あの時の嘆きがあったからこそ、私はこの使命に熱くなれている」と思うことができています。
私たちの作品を通して、もしも、今苦しみや試練、逆境の中にいる方に、「今の苦しみには想像を超えた計画があり、そこには希望があるのではないか?」という問いが生まれ、その問いがこの世界中に広がっていくことを願っています。
■名梨(作画)
制作を通して嬉しかった出来事はいくつかありますが、一つは、漫画を使った伝道が思っていたよりも、クリスチャンたちに必要とされていることに気付けたことです。
漫画はクリスチャンには嫌われているものだ、という固定観念の中で、後ろめたさを感じながら漫画の勉強を続けてきました。神様にも、「絵を描くという賜物をいただきましたが、伝道には何の役にも立たない気がします」「漫画が描けても、それが人の助けになるとは思えません」と、お祈りの中でつぶやいたりしていました。
そんな中で、神様が授けてくださった絵を描く技術を、伝道に活かすことができると分かった時、それが一番嬉しかったかもしれません。
とはいえ、コミカライズ(すでにあるシナリオや原作を漫画にすること)を担当するのは初めてのことだったので、悩みも多くありました。オリジナル漫画を描くのとは違い、すでにあるシナリオに沿った漫画を描くのは難しく、最後まで描き切れたのは神様の助けがあったおかげです。
またいつか漫画を描く機会をいただいた時、今度はさらにもっと良い作品を送り出すために、今後も継続して技術を磨いていきたいと思っています。