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昨年2月21日に99歳で召天したビリー・グラハム(Billy Graham)の新刊が久々に刊行された。『天のふるさとに近づきつつ──人生・信仰・終活』(Nearing Home: Life, Faith, and Finishing Well)。
世界中で大伝道集会を開き、最も多くの人に福音を語った伝道者。60年以上にわたり、世界185の国と地域で2億人以上がライブで、またテレビやラジオなどを含めると20億人以上がキリストの救いをビリー・グラハムから聞いたといわれる。
日本では1956年(国際スタジアム〈両国国技館〉。聴衆3万人、決心者1200人)、67年(日本武道館と後楽園球場。聴衆延べ20万人、決心者1万5000人)、80年(沖縄、大阪、東海、広島、福岡、東京。聴衆約33万5000人、決心者2万6038人)、94年(東京ドーム。聴衆延べ13万人、決心者5万2000人)に大伝道集会(伝道大会、国際大会)が開催されたので、実際に足を運んだ人も多いだろう。
一方、米国最大のプロテスタント教派である南部バプテスト連盟の牧師として、歴代の米大統領と密接な関わりを長年にわたって持ってきた。そのため日本では、戦争に加担する宗教右派、いわゆる悪名高い「福音派」(実際はもっと多様で一枚岩ではない)の顔のように誤解している人もいる。
日本ではいのちのことば社から多くの邦訳が出されてきた(以下、他の出版社だけ明記する)。
『日本伝道の記録』(56年)
『幸福の秘訣』(同年、ダイヤモンド社、66年)
『神との平和』(同年)
『七つの恐るべき罪』(57年)
『世界は燃えている』(66年)
『すべての造られた者に福音を』(67年)
『どうしたら神を見いだせるか』(同年)
『希望のにじ』(同年)
『ビリー・グラハムの人生相談』上・下(同年、ヨルダン社)
『洪水の前──ビリー・グラハム国際大会説教集』(68年)
『聖霊と宣教──ビリー・グラハム国際大会教職講演集』(同年)
『もう一つの革命』(72年)
『新しい人』(73年)
『真理に至る道──わかりやすいキリスト教の話』(74年)
『天使──その知られざる働き』(76年)
『神は遠くにいない』(同年)
『どうしたら新生できるか』(78年)
『ハルマゲドン──最後の日に備えて』(81年)
『迫りくる終わりの日』(85年)
『今よみがえる黙示録の預言』(93年)
「クリスチャン新聞」元編集長の守部喜雅氏は次のように回想する。「1956年……アメリカの大衆伝道者、ビリー・グラハムの来日は、大きな反響を呼び、大会会場の両国国技館は満員となり、会場で販売された著書『神との平和』は飛ぶように売れたといいます。特に、その単純明確な福音のメッセージは、多くの人々を信仰の決心に導いたのです」
しかし、2011年に出された100頁足らずの小冊子『ほんとうの安息』以後は、資料的価値のある自伝(Just As I Am: The Autobiography of Billy Graham)の翻訳や、既刊の再版すらされていない。日本では売れないと判断されたからだろう。そうした中で、いのちのことば社から独立して立ち上げられたイーグレープからビリー・グラハムの晩年の著作が刊行されたのだ。
原著は2011年10月に出版され、米国では「ニューヨーク・タイムズ」紙のベストセラー、および福音派キリスト教出版協会(ECPA、The Evangelical Christian Publishers Association)の2012年ブック・オブ・ザ・イヤーに選ばれている。
「私はこれほど長生きするとは思ってもみませんでした。これまでの人生では、クリスチャンとしていかに自我に死ぬべきか、と教えられてきました。しかし、死ぬ前の年月をどのように生きるべきか、だれも教えてくれた人はいませんでした。教えてくれていれば良かったのに、と思います。……老人であることは容易なことではありません」と、93歳の誕生日を目の前にしたビリー・グラハムは語る。
そして、いつものように、人生の土台となる真理を聖書から落ち穂拾いしながら、高齢化の課題を探っていく。「長い人生を与えられれば、老いることは自然なことです。しかし、豊かな心をもって老いるかどうかは、その人の選択です」
個性的な名女優の死後出版された『一切なりゆき 樹木希林のことば』(文春新書)が一般社会では80万部を超えるほど読まれているが、日本のキリスト教界で「一切キリスト ビリー・グラハムのことば」ともいうべき本書も、現在、重刷の準備が始められているところだという。
ビリー・グラハム『天のふるさとに近づきつつ──人生・信仰・終活』
イーグレープ
2019年1月21日初版発行
四六判・252頁
2000円(税別)