クリスチャンでも風邪をひきます。病気になります。心の病に罹(かか)ります。事故に遭(あ)うし、天災にも見舞われます。そして時に、自死ということも起こります。
いまから10年くらい前のことです。一人の牧師先生が私に打ち明け話をしてくださいました。それは、その先生の教会に起こった悲劇的なある出来事でした。伝道師さんが自死されたのです。
先生は淡々と語られましたが、それは聞くのもつらい内容でした。自死という現実の前には、人は言葉を失います。
お話は1時間半ほど続きました。
苛酷な話でした。それを物語っている部屋は、闇そのもののような空間に思えました。事実、話を始めてからいつのまにか夕方になっていました。電気の点(つ)いていない部屋は暗かったのです。
やがてそのうち、不思議なことが起こりました。部屋の中に光を感じたのです。それは細長い一条の光でした、
この悲劇のどこに光があるのか、私にはわかりませんでした。
牧師先生は憔悴(しょうすい)しきった表情で語り続けておられます。
けれど光は、たしかにありました。
はっきりと見えるほどに。
闇のただ中に、神様は私に一条の光を見せてくださったのです。
「月の都」は、この時の感動を基に、自死をテーマにストーリーを創り、書き上げた作品です。
作品中には30代から60代までの3組の夫婦が登場します。
幼い二人の子供を持つ牧師夫妻。無神論者の夫とカトリック信者の妻。大学教授の夫と、夫を崇拝する妻。各々の夫婦が織り成す人間模様。その葛藤、秘密、挫折、そして愛……。
テーマが重いので、暗くならないように心がけ、軽い笑いも入れました。読者の皆様に楽しみにしていただける連載となりますようにと、心から願っています。
(これから毎日、午後6時に掲載します=編集部)