香港情勢を憂う超教派の有志牧師ら主催による「香港を覚えての祈祷会」が10月31日、オンラインで開催された。前回の緊急祈祷会(9月11日付本紙で既報)に引き続き緊迫する情勢に配慮して、関係者に限定する形で約70人が参加した。
冒頭、主催者の一人である松谷曄介氏(日本基督教団牧師、金城学院大学宗教主事)が、香港で学んだ自らの体験や、そこで出会った牧師たちとの国境を越えた交流を振り返りながら、祈祷会を始めた経緯を紹介。かつて現地で行った説教=写真上=の中で、「日本のため、日本の教会のために祈ってほしい。私も日本に戻ったら、皆さんのために祈り続ける」と約束したことを想起し、「今こそ、この約束を果たしたい」と述べた。また「キリスト者にしかできないことは祈りと礼拝。絶望や恐れ、不安の中でも、私たちには祈る自由がある」とし、獄中のボンヘッファーが作詞した「善き力にわれかこまれ」を参加者で賛美した。
祈祷会には、香港の青年担当牧師もオンラインで参加し、一時は絶望的な状況に直面して牧師を辞めたいとも思いながら立ち直った経験を共有。当初は、デモに参加する若者と警察との衝突を和らげようと努力し、平和を造り出す者になろうと祈り続けたものの情勢は緊迫し続け、ついに燃え尽きてしまったという。今年の初めに香港を抜け出し、富士山麓の「黙想の家」で8日間の休息をとる中、「主導権を神様に渡すことで希望を見出せた。私に香港の状況を変えることはできないが、神に忠実であることならできると気づかされた」「私が自分を諦めていた時、日本の牧師を含め私を諦めずにいる方々がいた」と感謝と共に振り返った。
最後に、「人々が困難な時に神と出会うことができるように、主が心と体の傷ついた者を癒してください。香港の分裂させられた状態に対応するため、教会の牧師と指導者に力と知恵と忍耐と、そして愛をお与えください。逮捕され、中国に送られてしまった12人の若者たちを助けてください。主が彼らと共にいて、安全に香港に帰れますように」との祈りをささげた。
香港のキリスト教をめぐる状況や祈りへの導きは、松谷氏作成による以下の動画「香港危機とキリスト教――香港のための祈り」が参照可能。
香港からの報告、祈祷会でささげられた連祷の全文は以下の通り。
「暗闇に射し込んできた光」 香港の青年担当牧師より
本日は、この祈祷会に招いてくださり、話をさせていただく機会を設けていただき、ありがとうございます。これからの香港のために、多くの教会のみなさま、牧師のみなさまが祈ってくださっていることをとても心強く感じます。お祈りを心から感謝します。今は祈りが本当に必要な時なのです。
今日は、私の心の暗闇に神さまの光がどのように射し込んできたのか、皆さまにお話ししたいと思います。そして、この運動[香港民主化運動]の中で、いったいどのように神さまが私を待っておられ、私といっしょに歩んでくださっているかについても。
私は大きな試練に直面していました。それは、自分が牧会してきた教会を離れるか、それともそこにいる兄弟姉妹を愛して受け入れ続けていくか、という試みだったのです。
昨年の6月12日以降ずっと、私の心は激しく動揺し続けました。香港人の間の争い、警察による理不尽な暴力。抑圧される若者のこともとても心配でした。先月までで1万人以上が逮捕され、そのうち90%が30歳以下と言われています。
若者たちの中には、PTSD(心的外傷後ストレス障害)とたたかい、今でも眠れなかったり正常に行動できないままでいたりする人たちもいます。家族から追い出された若者たちもいます。新型コロナウイルスの影響で、運動は大幅にスローダウンしてはいるものの、このような心のトラウマは簡単に癒えるものではありません。連日のニュースで民主化運動の様子を見ると、今も心がひどい緊張状態になります。
2019年の後半、私はこれまでの人生の中で最もどん底にいました。デモの中、私は若者と警察の衝突をやわらげようと努力しました。平和を造り出す者になろうとしたのです。毎晩のように、負傷者や逮捕者が出ないように祈りました。けれども、情勢は緊迫をし続け、暴力も増え、私の脳裏は破壊的な情景でいっぱいでした。自分を見失い、目の前が見えなくなり、ついに燃え尽きてしまいました。暗闇の中で、神さまが私を救おうとなさることを拒否し、神さまが与えようとする言葉も、神さまが差し出そうとする慰めも拒絶しました。
そこで2020年の初めに、私は緊張が高まる香港を抜け出し、東京で8日間の休息を取りました。富士山の麓にある「黙想の家」に行き、木の下に座って、旧約聖書のエリヤのように祈りました。「主よ、もう十分です。私の命を取り去ってください。もう私は使い物になりません。香港の状況を変えるのに私ができることは一つもありません」
状況から言えば、イゼベルに命を狙われて逃げていたエリヤの方がずっと深刻だったでしょう。それでも、私たちの神さまへの不満は似たようなものだったかもしれません。なぜイゼベルのような悪の力がまだ存在しているのですか? いったい正義はどこにあるのですか?
私は不満を言いながら、1日に3度眠り、1日に14時間は寝ていました。滞在していた施設のシスターたちが、1日3食、おいしい食事を用意してくれました。私の1日は、エリヤのように神さまに不満を向け、食事をとり、眠り、そしてまた不満を言うことで精一杯でした。
私は神さまにこうも言いました。「もう牧師を辞めたいです。普通のクリスチャンになりたいんです。こんな時代にユースパスターでいるのはとても無理です。私にはこの状況を変えることなどできません」
ある朝、私は施設内のお茶畑を散歩し、美しい花を見ていました。私には、花の方が私よりもずっと価値あるものに見えました。私は主に尋ねました。「なぜあなたは人間を造られたのですか? なぜこの私をお造りになったのですか?」
そして、創世記第1章を読みました。そこには、同じ言葉が7回繰り返されていました。「神はご自分が造られたものを見て、よしとされた」
何がよくて、何が悪いか、それを見極めるのは神さまの御手の中にあることでした。私たちの目には、香港の情勢はとてもひどく映りますが、神さまの支配のもとにある。神さまは、私の目と心を開くために、この聖書の言葉を用いてくださったのです。
はじめのうちは、このメッセージを、完全に受け入れ従うことはできませんでした。ですから、この言葉を香港に持ち帰り、今でもまたじっくりと身を浸しています。
私は主に祈りました。「私はあなたのご支配には従うことはできません。どうか、あなたに心から従うことができるように私を造りかえてください」
1日1日、私は物事を、自分の視点だけではなく、神さまの視点でも見るようにしています。1つの物事でも、違う考え方を尊重するようにしています。正解か不正解か、という二択ではないときもあります。ただ、私たちは「違う」ということなのです。神さまのご支配に従うなら、私は神さまに希望を見出すことができます。私には香港の状況を変えることはできません。しかし、神さまに忠実であることはできます。
これは、どのように自分の人生の支配権を手放すか、という貴重なレッスンでした。私が主イエスを信じたとき、そのことはとっくに学んだつもりになっていました。しかし、そうではありません。このことは、一生をかけて学んでいくことだったのです。
神さまのご支配を受け入れるようになっていから、私は「主の祈り」をこれまでとは違うしかたで受け止めるようになりました。主の祈りには、二つの側面があるのです。
その一つは、神の「御心」と「御国」のために祈る、神さまの目線からの祈りです。神さまの御国が実現されていくために、神ご自身による助けを求めることです。
もう一つは、主の祈りによって、私たち自身の感情や必要をはっきりと言い表すことです。この祈りを通して、私たちには香港の状況を変えていただくために、神さまに不満を言い、懇願することができるのです。
私たちが祈るのは、神さまがあなたを、そしてこの私を愛していると信じているからです。私たちが祈るのは、神さまがすべてを支配しておられると信じているからです。
時々思い返します。なぜ私がこの大きな試練を通り抜け、牧師として若者たちに愛を注ぎ続けることができるようになったのでしょう。その大きな理由は、多くの牧師たち、日本にいるH牧師のような方々が私のために祈ってくださったからです。私が燃え尽きた時、私が自分を諦めていた時、私を諦めずにいる方々がいたのです。
神さまは今も私たちのために働いておられます。神さまは決して私たちを諦めることはないのです。祈りの力は私たちの想像を超えるものです。私たちのために祈ってくださることを感謝します。
これから私が日本のために英語で祈り、香港のために広東語でお祈りします。ご一緒に祈りましょう。
主なる神さま、あなたの御名によって祈る資格を与えてくださり、ありがとうございます。私たちが自分の願いではなく主の御心に従うことができるよう、私たちに力を与えてください。聖霊さまが私たちの上に働きかけ、私たちと共にいてくださいますように。
日本のためにお祈りします。日本の人々の目と心があなたに開かれ、神さまの愛と救いを受け取ることができるよう、人々の心を和げてください。また、日本の諸教会のためにお祈りします。教会がゆっくりと歩み、そしてあなたの恵みを存分に受け取れるよう、そのためのスペースもお与えください。
聖霊さま、どうかキリストを信じる者のクリスチャンとしてのアイデンティティを強め、私たちが日々の生活の中であなたを見上げることができるよう、お助けください。神さまの祝福が、皆さま、皆さまの家族、そして教会の上にありますように。
香港のためにも、お祈りします。主よ、あなたのご計画が香港で実現され、信者の霊的生活が再生し、人々が主のもとに立ち帰り、香港をよりよく管理することができますように。
人々が困難な時に神と出会うことができるように、主が心と体の傷ついた者を癒してくださいますように。
香港の分裂させられた状態に対応するため、主よ、どうぞ教会の牧師と指導者に力と知恵と忍耐と、そして愛をお与えください。逮捕され、中国に送られてしまった12人の若者たちを助けてください。主が彼らと共にいて、安全に香港に帰れますように。
イエスさまのお名前によってお祈りします。アーメン。
香港を覚えて 第1回連祷
司式) 天地を造られた全能の父なる神よ、私どもはプロテスタント教会にとって大事なこの日に、香港のキリスト者を覚えて集まってまいりました。祈りを必要とする人間がかの地に生きており、祈りによって変えていく必要のある現実があるからです。
会衆) 神よ、どうか私どもを憐れみ、からし種のような信仰を受け取り、この山を動かしてください。
司式)恐怖に押しつぶされている人々がおります。不安で萎縮している仲間がおります。信頼していた国に裏切られ、託していた安心が崩れ去り、消えることのない心の傷を受けています。その心の悲しみがどんなに深いものであるか、はかり知ることができません。
会衆)けれども、あなたはすべてをご存知です。どうかあなたの御手を伸ばしてください。その心の傷にあなたが触れてください。あなたが、その心に、平安をお与えください。
司式)危険を顧みず、山のように大きな力と向き合っている仲間がおります。言葉を失った人々の声となり、失われた自由と誇りを取り戻すために、誰かがやらねばならぬ問題に祈りつつ向き合っている仲間がおります。
会衆)主よ、どうかその一人一人をお支えください。くじけそうになるときは、祈ることを教えてください。あなたは必ず、その祈りに応えてくださいます。
全員)政府に関わる者たちのために祈ります。この世の力で凍りついた心を、あなたの愛で溶かしてください。問題を抱えているところには、あなたが良き解決の道を拓いてください。
司式)私どもがこの出来事について無関心であることがありませんように。暗い時代の中で、窮地に追い込まれているアジアの信仰の仲間がおります。福音を宣言したことによって安全な生活を失った仲間がおります。普段の生活を取り戻しても、心に光が届かない方々がおられることを覚えます。
会衆)光そのものであられる主よ、そこにこそあなたが届いてください。十字架の主が共にいまして、今一番必要な慰めと支えを与えてください。どんな時でも、神が共におられるとの確かさの中で平安に生きることができますように、あなたの御手を伸ばしてください。
全員)必要ならば、どうか主よ、私どもをお遣わしください。私ども日本のキリスト者を、アジアや世界の仲間と共に、あなたにお従いする祈りの群れとして生きる者とさせてください。 救い主イエス・キリストの御名によって祈り捧げます。アーメン