日本キリスト教協議会(NCC)は10月7日、日本学術会議の候補者任命拒否問題を受けて、人事問題への介入に抗議し、撤回を要望する声明を金性済総幹事以下、各委員会委員長の連名で発表した。声明は同会議が「戦前、厳しい言論統制下において学問の自由がゆがめられ、戦争協力の道を歩んだことの反省を踏まえ」て設立されたことを踏まえ、その独立性は「かつて明治憲法に基づく国家神道と大政翼賛体制の下で学問の自由が脅かされた歴史の反省に立脚する日本国憲法第23条(「学問の自由」)に裏付けられてい」ると強調。信教の自由と政教分離の原則(第20条、89条)を守るための取り組みをしてきたキリスト者の立場から、「直接的には『学問の自由』の問題にかかわる事柄ですが、それが侵害される事態を黙認してしまうことは、信教の自由や政教分離の危機と密接に連関していると確信する」とし、かつての大戦における深い反省を込めた神学者マルティン・ニーメラーの言葉を引用した。
これに先立ち10月6日には、日本キリスト教会東京中会靖国神社問題特別委員会(上山修平委員長)も同趣旨の声明を発表。「人類は、為政者が自分は正しと強硬に主張して政治を押し進める中で、多くの人々が苦しむことになる歴史を繰り返して来ました。私たちキリスト者もその中で苦しみを負った歴史を持っています。したがって、この学術会議が政治的・思想的・信仰的立場等、あらゆる立場を超えて、自主的にふさわしい会員を選ぶということ、政府がそれを重んじるということは極めて重要なことであると考えます」として、内閣府による任命拒否の撤回を強く求めている。
声明の全文は以下の通り。
日本学術会議の人事問題への介入に抗議し、その撤回を要望します
日本学術会議が新会員として推薦した105名中、菅内閣総理大臣(以下、菅首相)によって6名が任命されず除外されていることが去る10月1日に明らかとなりました。このことに対して、日本学術会議は、その理由と根拠の開示を求める要望書を出しましたが、今だその要望に応えられていません。わたしたちは、菅首相による、日本学術会議の人事問題介入に対して強く抗議します。
日本学術会議は、戦前、厳しい言論統制下において学問の自由がゆがめられ、戦争協力の道を歩んだことの反省を踏まえ、1949年に設立されました。その所轄は、内閣総理大臣のもとにおかれましたが、日本学術会議法第3条は、この組織の「独立」性を規定しており、また歴代の首相はその趣旨を一貫して尊重してまいりました。
日本学術会議の独立性は、かつて明治憲法に基づく国家神道と大政翼賛体制の下で学問の自由が脅かされた歴史の反省に立脚する日本国憲法第23条(「学問の自由」)に裏付けられています。憲法の保障する「学問の自由」とは、ただ単に個別の学問の営みばかりでなく、学問の自治、すなわち公的な学術職・学術機関の自立をも保障するものであります。従って、加藤官房長官が「会員の人事などを通じて、一定の監督権を行使することは法律上可能」(10月1日)と述べ、また、菅首相が「法に基づいて適切に対応した結果」(10月2日)と応えたことは、国会の指名に基づいて任命される首相(憲法第6条)を、天皇が任命権を行使すると言って退けるようなことに相当するほど理不尽なことというほかありません。
わたしたちキリスト者は、これまで憲法の保障する信教の自由と政教分離の原則(第20条、89条)を守るための取り組みをしてまいりました。この度の問題は、直接的には「学問の自由」の問題にかかわる事柄ですが、それが侵害される事態を黙認してしまうことは、信教の自由や政教分離の危機と密接に連関していると確信するからであり、また、かつての大戦におけるキリスト者の深い反省を込めた以下の言葉を想起するからであります:
「ナチが共産主義者を襲ったとき、自分はやや不安になった。けれども結局自分は共産主義者でなかったので 何もしなかった。それからナチは社会主義者を攻撃した。自分の不安はやや増大した。けれども自分は依然とし て社会主義者ではなかった。そこでやはり何もしなかった。それから学校が、新聞が、ユダヤ人が、というふう に次々と攻撃の手が加わり、そのたびに自分の不安は増したが、なおも何事も行わなかった。さてそれからナチ は教会を攻撃した。そうして自分はまさに教会の人間であった。そこで自分は何事かをした。しかしそのときに はすでに手遅れであった。」(マルティン・ニーメラー)
この度の菅首相による、日本学術会議の人事問題介入は、法違反であると同時に、憲法の精神に違反します。わたしたちは、この度、6名の学者を除外したことを速やかに撤回されますことを、ここに強く要望いたします。
2020年10月7日
日本キリスト教協議会
総幹事 金 性済
都市農村宣教委員会 委員長 原田光雄
靖国問題委員会 委員長 星出卓也
在日外国人の人権委員会 委員長 李 明生
東アジアの和解と平和委員会 委員長 飯塚拓也
教育部 理事長 石田 学
内閣府による日本学術会議会員任命拒否の撤回を求めます
この度、日本学術会議が安倍前首相に提出した会員候補者に対して、内閣府は105名のうち6名を除外するとの決定を行いました。これに対して内閣府の長である菅首相は10月5日に、「(日本学術会議が持つ)総合的・俯瞰的な活動を確保する観点から判断した」と説明しましたが、「総合的・俯瞰的」という言葉で何を考えられているのか全く分からず、これでは説明になっていません。
戦時下における科学者の戦争協力への反省から生まれた日本学術会議は、この組織の法前文からも分かるように、その独立性と自立性を何よりも大事にして来たのであり、政府もそれを理解し認めて来たものです。以上のような歴史とそれが持つ意味を考える時、今回内閣府が決定したこと、さらにそれに対して菅首相が行った説明は全く理解できない決定と説明です。
人類は、為政者が自分は正しと強硬に主張して政治を押し進める中で、多くの人々が苦しむことになる歴史を繰り返して来ました。私たちキリスト者もその中で苦しみを負った歴史を持っています。したがって、この学術会議が政治的・思想的・信仰的立場等、あらゆる立場を超えて、自主的にふさわしい会員を選ぶということ、政府がそれを重んじるということは極めて重要なことであると考えます。
よって、私たちは、内閣府による日本学術会議会員任命拒否の撤回を強く求めます。
2020年10月6日
日本キリスト教会 東京中会靖国神社問題特別委員会
委員長 上山修平
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