Q.教会内にキレやすい兄弟がいます。どうしたらいいでしょうか。(30代・男性)
「キレる」という言葉が初めて広辞苑に登場するのは1998年であるということですから、この言葉はここ十数年の間に人口に膾灸したものと思われます。昔から「堪忍袋の緒が切れる」という似たような表現がありましたが、この場合は怒る前に忍耐する時間がありました。ところが、キレる場合は配線がショートするように、突発的に理性が働かなくなり怒りが爆発します。
近年、キレる人が多く見られるようになったのは、感性的に未熟な人間が増えつつあることと、こうした人を支えるネットワークが弱体化しているためであると考えられます。一般的にキレやすい人はプライドが高く、面子を重んじ、傲慢さと過敏さが同居しています。そして、少しでもその自己愛的構えが傷つけられると、見捨てられ感、不安感、恐怖感を持つに至り、他者に対して「加害者」として振る舞ったり、自分は「被害者」であると感じます。このような心理がキレるという現象となって現れるのです。
キレやすい人は、知能や信仰はしっかりしていても落ち着きがなく、衝動性をコントロールすることが苦手です。その背後には、認知過程や言語表現の仕方に問題があり、その結果として、対人関係の不器用さが目立ち、共感性が乏しくなります。そのために、周囲から叱責されたり、阻害されたりするのです。そうすると、一層キレやすくなるという「負のスパイラル」に入ってしまうことになります。
このようなキレやすい人に対して、周囲の人々は、すぐ非難するのではなく、まず冷静に彼らの弱さを理解しようと努力すべきでしょう。彼らの言行を注意する際にも、その人の全人格まで否定したり、彼らにすべての責任を転嫁することは止めましょう。
また、信頼できる人や専門家に相談するのも一法です。なお、キレるという言行が周囲の配慮不足から生じている場合は、率直に反省、謝罪し、彼らと関係性を修復しようとする努力が必要です。
ひらやま・まさみ 1938年、東京生まれ。横浜市立大学医学部卒業。東洋英和女学院大学教員を経て、聖学院大学子ども心理学科、同大大学院教授、医療法人財団シロアム会北千住旭クリニック理事長・院長、NPO法人「グリーフ・ケア サポート・プラザ」(自死遺族支援)特別顧問を歴任。精神保健指定医。著書に『精神科医からみた聖書の人間像』(教文館)、共著に『イノチを支える-癒しと救いを求めて』(キリスト新聞社)など。2013年、75歳で逝去。