安倍晋三元首相の「国葬」が7月22日に閣議決定されたことに対して、抗議の声が相次いでいる。
日本基督教団社会委員会(森下耕委員長)は8月1日に声明を発表し、強い懸念と憂慮を示して撤回を求めた。岸田内閣の閣議の恣意的判断によって国葬とされる儀式に国費を支出することは、国の財政権限を国会決議に基づかせる憲法第83条違反となること、国葬となれば国民の弔意が事実上、権力によって強いられることとなり、言論が封じられ、人間の思想・良心の自由を保障する憲法第19条の違反となることを指摘した。
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日本カトリック正義と平和協議会(ウェイン・バーント会長、エドガル・ガクタン担当司教)も1日、「国葬」に反対する声明を発表。「『国葬』は、国家が主催し、国費をもって実施する葬儀であり、国家から功績が評価された偉人への弔意を、国民皆に強いるものです。人の死を悼み弔うという個人の内面的な営みに、国家が介入することは許されません」と述べ、憲法19条の「思想及び良心の自由」に矛盾することを指摘するとともに、安倍元首相の人物評価が二分されている現状で「国葬」を強行すれば、国民を分断することになりかねないと危惧した。
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日本キリスト改革派教会大会宣教と社会問題に関する委員会(弓矢健児委員長)は8月3日、撤回を求める声明を発表。内閣府設置法は内閣府の所管業務の範囲を定めたもので、何が「国の儀式」であるかを定めた法律ではないとし、「国葬」に関する法律がないにもかかわらず、政府が閣議決定で「国の儀式」として「国葬」を行うことは違法であり、憲法83条に違反すると指摘した。さらに、「国葬」となれば葬儀に関わる費用は税金である国費によって支出されるため、個人の意思にかかわらず、すべての納税者が弔意を強要されることになると述べ、個人の思想・良心・信教の自由に反するものであると訴えた。
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日本基督教団北海教区(原和人議長)は10日、閣議決定を撤回し「国葬」を実施しないよう求める声明を発表。「7月に行われた安倍元首相の葬儀に際して帯広市教育委員会が小中学校に半旗の掲揚を要請し、多くの学校で実際にこれを実施するという事態がありました」と述べ、「法的な強制はなくとも事実上の強制や自粛が、教育現場はじめ社会内の各所で行われるのではないかとの懸念は払しょくできません」として、多くの人の思想信条の自由、信教の自由を侵害しかねないものだと強調した。
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日本バプテスト連盟靖国神社問題特別委員会も11日に中止を求める声明を発表。今回の閣議決定について、「国会審議を無視し、時の政権による法解釈による決定は、それこそ『民主主義』を蔑ろにする事態である」とし、「このようにして実施される『国葬』が、人のいのちと死に国家が優劣をつけ、また国の内外の人々に『弔意』を強要することとなり、民主主義の根幹である個人の思想・信条の自由を奪い、民主主義そのものをも蔑ろにするものである」と危惧した。その上で、弔いは私的なもので近親者に委ねられるべきものであり、「国葬」が行われるならば、「それは死者とその家族への冒涜だけでなく、様々な禍根を残してきた安倍元首相による政治の正当化を招き、今回の事件の背後に潜む諸課題が有耶無耶にされてしまう」と懸念した。