【東アジアのリアル】 香港の神学校で学んだミャンマーの神学教師たち 松谷曄介

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ミャンマーの軍事クーデターは世界を震撼させた。民主化のプロセスを順調に歩んでいると思われたこの国は、果たしてこのまま軍政に逆戻りしてしまうのだろうか。

これに対して、ミャンマー各地で大規模な抗議デモが繰り広げられているが、SNSでは、牧師や神父、シスターも街頭デモに繰り出す様子が散見された。またキリスト教各界からも相次いで抗議声明が出され、カトリックのヤンゴン大司教チャールズ・マウン・ボ枢機卿、プロテスタントのミャンマー・バプテスト連盟やミャンマー神学研究院などが、英語で世界に向けて祈りの要請や抗議の声を発信している。

私がミャンマーのキリスト教に初めて接したのは、実は香港で在外研究をしている時だった。それまでは恥ずかしながら、ミャンマーや他の東南アジアのキリスト教についてほとんど知らず、したがってそのことを考えたり、祈ったりしたことがなかった。

私が在外研究していた香港中文大学・崇基学院神学院は公立大学の中にある神学教育機関という非常に珍しいところだったが、そこには香港の地元の学生のほか、中国大陸からの留学生、そしてミャンマー、インドネシア、カンボジアなど東南アジアの神学教師たちが正規の神学修士号・博士号取得のために在籍していた。ミャンマー人の神学教師たちは少数民族であるチン族の人たちだったが、彼らはみな将来のミャンマー宣教のために英語で懸命に神学の研鑽を積み、そして帰国していった。崇基神学院はこれまで約35人のミャンマー人神学教師を受け入れているが、このことからも、香港が東南アジアの神学教育の重要な一翼を担っていることが分かる。

香港で知り合ったこうしたミャンマーのキリスト者たちと、その後もフェイスブックで連絡を取り合っている。クリスマスの時期にメッセージを送ったり、写真や動画を通して現地の教会や神学校の様子を見たりしてきたが、軍事クーデター後は、彼らがSNSを使って内外に発信し続けているさまざまな写真、動画、メッセージを見ながら、心痛めつつ祈る日々だ。

 

3本指を立てるチン族の神学教師たち。右2人が香港留学組

ミャンマーの軍部当局による強権的手段は、中国大陸の民主化運動鎮圧(天安門事件)や香港の国家安全維持法(国安法)による取り締まりなどと重なる。しかし、それだけでなく、ミャンマーの多くの市民による平和的でありながらも勇気ある抗議活動は、この数年の間に繰り広げられてきた香港市民による民主と自由のための闘いとも重なるものに思えてならない。

事実、香港の友人たちのSNSにはミャンマーの人々の「市民的不服従運動(Civil Disobedience Movement)」を支持する書き込みが多く見られ、また神学校や教会でもミャンマーのための祈りがささげられている。雨傘運動、逃亡犯条例改正反対運動を通して民主化のために戦い、そして今、国安法により運動が大きく抑え込まれている香港の人々は、民主主義を失わないために戦っているミャンマーの人々の苦しみや悲しみを自分たちのこととして受け止め、共に「十字架」を背負って歩んでいると言えよう。

ミャンマーではタイでの抗議活動と同様に、抗議の意志を示す際、映画に由来する3本指を立てるサインが流行しているが、キリスト者がそれをする時、私には父・子・聖霊なる三位一体の神への祈りに見えてならない。

ミャンマーの友人たちを思いながら、私も初めて3本指を立ててみた。民主と自由を取り戻すために戦う彼らとの再会の日を祈りつつ。

松谷 曄介
 まつたに・ようすけ 1980年、福島生まれ。国際基督教大学、東京神学大学、北九州市立大学を経て、日本学術振興会・海外特別研究員として香港中文大学・崇基学院神学院で在外研究。金城学院大学准教授・宗教主事、日本基督教団牧師。専門は中国近現代史、特に中国キリスト教史。

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