日本キリスト教協議会(NCC)は金性済(キム・ソンジェ)総幹事、平和・核問題委員会委員長の名義で1月27日、核兵器禁止条約発効をめぐり声明を発表。日本政府が賛成も批准もすることなく今日に至ったことについて「無念の思いを禁じ得ない」とし、「二度と被爆の悲劇を繰り返さないことを祈り叫ぶ被爆者たちのこれまでのたゆまない平和への苦闘を踏みにじり、……福島原発事故の歴史から何も教訓を学ばない態度を表明することになる」と非難した。
また、「核兵器は必要悪ではなく、絶対悪」とする被爆者サーロー節子さん(カナダ合同教会員)の言葉を引用し、「核抑止論と原子力『平和利用』の安全神話はすでに破綻しているばかりでなく、核兵器と原子力発電所はいのちと健康と環境を破壊し、人類をさらに破滅へと陥れかねない絶対悪であることに一人でも多くの人々が目覚め」「破滅的構造悪への隷属から脱出することができるように……最善を尽くさなければならない」との姿勢を改めて示した。
声明の全文は以下の通り。
核兵器禁止条約発効をめぐる声明文
核兵器の開発・生産・保有・貯蔵を禁止し、核兵器のない世界をめざす核兵器禁止条約が昨年10月24日にホンジュラスの批雑により50か国/地域の批准を得、本年1月22日に発効するに至った。この条約は、2017年7月7日に国連122か国/地域の賛成により採択され、以来、3年の歳月を経ることにより、発効に必要な50か国・地域に至ることができた。無念の思いを禁じ得ないのが、日本政府は結局この条約に賛成も批推もすることもなく今日に至ったことである。
核兵器禁止条約の成立の背景には、何よりもまず、1945年8月の広島と長崎における原爆投下による人類未曾有の無差別殺戮と破壊の経験、そして戦後も被爆の止むことのない苦しみを負いつづける苦難の中から轟かされた、この世界に再び被爆者をつくらない、という被爆体験者の切実な叫びがある。さらに、1954年、太平洋・ビキニ環礁での米国の水爆実験による第五福竜丸の被爆が世界を震撼させ、米ソ冷戦体制下において1968年に核拡散防止条約(NPT)が採択され、発効(1970年)し、それは1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)の採択(未発効)にたどり着いた。核兵器廃絶と核拡散防止をめざす世界の道筋がついに核兵器禁止条約に至るまでには、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)や赤十字国際委員会などの、核兵器の非人道性を訴え、国際条約の成立を目標とする非政府組織の世界的な広がりがあった。
しかしながら、世界唯一の被爆国、 日本では、2011年3月、福島において原子力の「平和利用」という美名のもとに推進してきた原子力発電所の大事故を経験し、唱えてきた安全神話が破綻してしまったのである。日本政府は、このように何度も被ばく体験を経験しながらも、エネルギー政策の転換を図らず、しかも頑なに核兵器禁止条約加盟の道を拒み続けてきたのである。
日本政府が加盟を拒む理由は、東北アジアにおける中華人民共和国・朝鮮民主主義人民共和国による核の脅威から自国の安全を確保するためには、核保有国であるアメリカ合衆国(以下、米国)の核の傘による抑止力に依存せざるを得ないというものである。
しかしながら、日本政府はこのような核抑止論に立ちながら、安全保障のために核兵器に依存することにより、第一に、敵視する相手国にさらなる核開発の理由を与え、さらに絶えず、核攻撃の標的とされるという不安を自ら増幅させるという自己矛盾に陥り続ける。第二に、日本政府のそのような核抑止論は、戦争と軍事力の永久放棄を謳い、「非核三原則」を採択(1971年)させ、そして人類社会からの核兵器の廃絶をめざす核兵器禁止条約の理念とも整合する日本国憲法9条の理念から、自ら離反していく。そして第三に、そのような日本政府の道は、広島・長崎の原爆犠牲者の失われた貴いいのちの意味を顧みず、二度と被爆の悲劇を繰り返さないことを祈り叫ぶ被爆者たちのこれまでのたゆまない平和への苦闘を踏みにじり、さらに福島原発事故の歴史から何も教訓を学ばない態度を表明することになるのである。
「核兵器の開発は、国家の偉大さが高まることを表すものではなく、国家が暗黒の淵へと転落することを表しています。核兵器は必要悪ではなく、絶対悪です」(サーロー節子のことば)という言葉の測り知れなく重い意味に我々は立ち帰らねばならない。まさに、核兵器は非人道的な絶対悪であり、その使用も保有も開発も認められないものであることを、被爆国である日本にそ率先して堂々と主張すべきなのである。絶対悪である核兵器を持つ双方に対し廃棄するよう迫るべきであり、米国に気兼ねなどして平和への構築を怠ってはならない。また、「保有国との橋渡しを」などとの偽りの言葉を政府首脳は使うべきではない。そのようなものは、何ら核軍縮には繋がらない。既に核兵器禁止条約が国連総会で採択され、そしてこの度発効に至ったが、日本政府は賛意すら表明してこなかったことが非常に嘆かわしい。私たちは、一刻も早く日本政府が核兵器禁止条約に署名するよう求める。
世界教会協議会(WCC)は、2014年7月、第10回総会(韓国・釜山)において発表した声明文において、「『ヒバクシャ』と『ピボクチャ』(韓国朝鮮人の原爆被害者)の声があり、そして、核実験の機性者の声がある。それは、核時代からの脱出(出エジプト)を求める叫びである。」と記している。
核抑止論と原子力「平和利用」の安全神話はすでに破綻しているばかりでなく、核兵器と原子力発電所はいのちと健康と環境を破壊し、人類をさらに破滅へと陥れかねない絶対悪であることに一人でも多くの人々が目覚め、声を上げ、そのような破滅的構造悪への隷属から脱出することができるように、我々はさらにこれからも政府に核兵器禁止条約への加盟を訴え、働きかけるように、残された時間、最善を尽くさなければならない。
限りない悲しみをもって天地万物を互いに調和し、いのちを生かし合う被造物として創造された造り主なる神を信じ、呼び集められ、そして仕えるためにこの世界(オイクメネ)に遣わされた我々キリストの体なる教会は、その課題を、主イエス・キリストの宣教の至上命令として担っていくことが求められていると信じる。
2021年1月27日
日本キリスト教協議会
総幹事 金 性済
平和・核問題委員会委員長 内藤新吾