日本クリスチャン・アカデミー関東活動センターは9月24日、戒能信生氏(日本基督教団千代田教会牧師)を講師に招き、連続講座「日本キリスト教史を読む」の特別講義「スペイン風邪(1918~20年)の時、この国のキリスト教会はどうしたか」を早稲田奉仕園スコットホール(東京都新宿区)で開催した。参加者は感染予防のため80人に限定された。
約100年前の1918年、世界中で4千万人が死亡したとされるスペイン風邪が国内でも流行し、日本だけでも推計45万人が亡くなった。にもかかわらず、教会史研究の記録にはその影響や痕跡を見出すことができない。戒能氏はキリスト教史に携わる7人で共同研究を立ち上げ、それぞれの研究分野で各教派、学校の機関紙、個人史などの資料を分担して調査し、その背景に迫った。
1918年10月、植民地であった台湾の邦人教会で「流行性感冒」が発生したという『台北基督教報』の記事を皮切りに、各地の教会でスペイン風邪の罹患者が続出したことが報告され、1920年までに教会やキリスト教主義学校で現役の牧師8人を含め少なくとも50人余が死亡していたことが分かる。
また、柏木義円、内村鑑三、中田重治、金井為一郎、高倉徳太郎の日記から、世界的疫病を「神の審判」とする内村、柏木の預言者的な洞察を除いては、感染症の信仰的・神学的な意味についての言及はほとんどないことに注目。スペイン風邪とその深刻な影響にまつわる記憶が失われた理由について戒能氏は、1923年の関東大震災、第一次大戦の終結など世界的な変動の時期であったこと、当時の新聞報道の限界などを挙げた上で、「世の中のこと、社会の問題は、罪の赦(ゆる)しの福音の後景に退いていた。そこにこの国の教会の信仰理解の問題が凝縮されている」と指摘。
今日のコロナ禍にも通じる教訓として、「忘れずに記憶すること」「戦争、自然災害、環境破壊などの世界的出来事を信仰的・神学的な課題として受け止め、関心を持ち続けること」の必要性を訴えた。