『香港の民主化運動と信教の自由』出版記念で編訳者らが対談 「希望の声を日本にも」

今年1月に発売された『香港の民主化運動と信教の自由』(教文館)の刊行を記念するオンライントークライブが2月26日、Zoomにて開催された。同書は、昨年6月に香港国家安全維持法が施行されてから、言論・報道・出版・集会などの表現の自由が脅かされている香港において、民主化運動に携わってきたキリスト者たちの声を集めた1冊。「香港2020福音宣言」の翻訳と解説に加え、香港に生きる牧師・司祭たちの生の声が収録されている。

平野克己(かつき)氏(日本基督教団・代田教会牧師)の開会あいさつの後、同書の編訳に携わった松谷曄介(ようすけ)氏(金城学院大学宗教主事・准教授、日本基督教団牧師)と、同書寄稿者の倉田徹氏(立教大学法学部教授)による対談が行われた。

対談では両氏の香港とのこれまでのかかわりを写真と合わせて紹介するとともに、香港におけるキリスト教の存在感や、今後懸念されることなどについて話し合われた。

同書を編訳した松谷曄介氏

幼いころから父親の仕事の関係で香港を訪れる機会が多かったという倉田氏は、長年にわたり香港の政治を見つめ続けてきた。2003年、国家安全条例の立法化に反対する大規模なデモ行進に参加したことが、自身にとっての原点だったと振り返る。

一方、大学時代に北京へ留学したのを機に、中国のキリスト教に興味を持つようになった松谷氏は、香港のキリスト教との違いに驚かされたと語った。「2014年に起きた雨傘運動の抗議デモの最中、礼拝場が設置されたり、路上で聖餐式が行われたりしていました。日本では考えられないことです。キリスト教にとって最も聖なる儀式である聖餐式を公の場で行うことが許容される社会のあり方を見て、これが香港だと感じました」

しかし、ここ数年で香港社会は激変し、香港の本質ともいうべき“自由”が奪われつつある。些細な言動さえ罪に問われかねない状況下で、牧師や司祭たちが自己規制せざるを得ず、それによって信徒たちの間に分断がもたらされてしまうなど、キリスト教界でも小さくない影響が懸念されている。

香港政治を専門とする倉田徹氏

ただ、予測通りにいかないのが香港社会であり、こうした状況は永続的なものではないだろうとも倉田氏。松谷氏も「この本に登場する方々のように、信仰的良心に従い、祈りと勇気をもって語るべきことを語り続けていることが希望だと思います。香港の報道を見ているとまるでもう終わりだと感じてしまう人も多いかもしれませんが、香港に響く希望の声を世界に、日本にも響かせる必要があるのかなと感じています」

後半には香港から邢福増(けい・ふくぞう)氏(香港中文大学崇基学院神学院教授)が登壇し、「政府と宗教の関係」「政府と教会の関係」「教会と政治の関係」「宗教と政治の関係」の四つの観点から中国と香港の政府と宗教の関係について語った。

中国では、すべての宗教は政府の管理下にあり、教義に関係なく、すべて政府に従わなければならない。あくまでも宗教は個人的なものであり、政治に干渉してはならないとされている。他方、香港には政府に宗教を管理する部門は存在せず、政府と宗教は共にある仲間のような関係であった。また、教育や社会福祉においても大きな役割を果たしてきた。しかし、香港社会にも中国のように愛国教育を強調する動きがあり、中国における政教分離が香港の宗教界に影響を与えるのかどうか注視したいと述べた。

ゲストとして香港から登壇した邢福増氏

「私たちは今、非常に大きなチャレンジを受けています。香港の教会内でも政治的にさまざまな立場に分かれていて、分断ともいうべき状況が起きていることも大きな問題です。多くのクリスチャンが先行きの見えない不安を抱える中、教会側はさまざまな立場にいる信徒に対してどのように牧会したらいいのか考えています。多くのことがいまなお変化し続けています。ひきつづき香港に対して関心を持っていただき、祈っていただけたら幸いです」

終了後の質疑応答で松谷氏は、「香港の教会に関わる人たちが孤立しないためには、彼らが香港の中以外にも仲間がいると思えることが大事」とし、「私自身も香港に多くの知人がいて、彼らが自分のために祈ってくれる人がいると思うだけで励まされます。まずは歴史や文化を超えて、“友だちになる”ことが大切では」と述べた。

3月11日に閉幕した中国の国会にあたる全人代(全国人民代表大会)では、香港の選挙制度変更が採択され、事実上、民主派が排除され、共産党体制を支持する「愛国者」が統治することとなった。これに対し先進7か国(G7)外相は香港の基本的な権利の尊重を求め、重大な懸念を示している。

河西 みのり

河西 みのり

主にカレーを食べています。

この記事もおすすめ