救い主を描いた1枚の絵をめぐる欲望と陰謀 映画『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』

「モナ・リザ」や「最後の晩餐」で知られる巨匠、レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の傑作とされる「サルバトール・ムンディ」をめぐるノンフィクション作品『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』が11月26日から公開された。

ラテン語で“世界の救世主”を指す名称の通り、この絵に描かれているのは青いローブをまとったイエス・キリスト。モナ・リザにも見られる、陰影を柔らかくぼかすスフマート技法が用いられていることから「男性版モナ・リザ」とも呼ばれる作品で、1500年頃に描かれたと考えられている。

物語はボロボロの状態で競売にかけられていたサルバトール・ムンディを、アメリカの美術商、ロバート・サイモンが見つけ出すことから始まる。本作で描かれているのは、わずか1175ドル(13万円程度)で購入されたこの作品が、さまざまな人の手を経て2017年にニューヨークのクリスティーズにおいてオークション史上最高価格の4億5000万ドル(約510億円)で落札されるまでの過程だ。

ダ・ヴィンチ本人ではなく、弟子による作品だという説も

日本ではほとんど公にされることがない美術品のマーケットの仕組みが、当事者の口を通して語られる様子は生々しい。もともとは読み書きができない人々に聖書を教えるために描かれたはずの宗教画は、現代においては金儲けの手段でしかないのか……と思わず口をあんぐりと開いてしまう。

ロバートからこの絵を買い取ったのはスイスの美術商イヴ・ブービエだ。バチカンにも交渉を持ちかけたというが、商談は成立しなかった。イヴは8000万ドル(約100億円)で購入した後、ASモナコの会長を務めるロシアの大富豪ドミトリー・リボロフレフへ1億2750万ドル(約157億円)で売却した。その後、ニューヨーク・タイムズ紙が実際の売却額を公表したことでイヴの“ピンハネ”が発覚。2015年にリボロフレフは、法外な手数料をだまし取られたとしてイヴを訴え、サルバトール・ムンディをクリスティーズに出品した(ちなみにこの訴訟は、6年経った今も決着していない模様)。

2017年11月15日に開催されたオークションでは、ダ・ヴィンチの幻の作品が世界最高の金額で落札されたとして世界中で話題を集めたのは記憶に新しい。当初、クリスティーズは落札者を非公表としていたが、サウジアラビアのバデル王子だったことが判明している。サウジ側はアブダビ文化観光局から購入の仲介を依頼されたと説明し、2018年にルーヴル・アブダビでの一般公開が発表されたが、結局これは実現しなかった。その後、絵の所在は明らかにされていない。

『サルバトール・ムンディ』がクリスティーズに出品された際の様子

いま、サルバトール・ムンディはどこにあるのだろうか。そもそもこの作品はダ・ヴィンチ本人による“真作“なのだろうか。作品中でも専門家たちがあらゆる方法で鑑定しているが、もはや正解は誰にもわからない。

1枚の、それもイエス・キリストを描いた絵画をめぐる人間の欲望に、“敬虔”なクリスチャンは眉をひそめるかもしれないが、やれ本物だ、偽物だと意見を主張し合う人々や、ひと目このサルバトール・ムンディを観たいという一心で美術館やオークション会場へ押し寄せ、作品を前に涙ぐむ群衆の姿は「聖書にもこんなシーンが登場するなぁ……」と思わせる。

真偽のほどはさておき、1アートファンとして、いつかどこかでサルバトール・ムンディと出合う日を心待ちにしたい。

『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』

監督:アントワーヌ・ヴィトキーヌ
配給:ギャガ
字幕翻訳:松岡葉子
公式サイト: https://gaga.ne.jp/last-davinci/
TOHOシネマズシネマズシャンテほか全国順次ロードショー

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