「聖書協会共同訳セミナー」高松で淺野淳博氏 「キリストの真実」と訳した理由

2018年に刊行された『聖書 聖書協会共同訳』の認知向上、地域の識者、読者との交流を通じ、聖書事業への意見・提言を聞くことを目的とした「聖書協会共同訳セミナー」が7月17日、日本基督教団高松教会(香川県高松市)で開かれ、約50人が参加した。

講師として登壇した新約の翻訳者の一人である淺野淳博氏(関西学院大学神学部教授、京都大学講師)は、「特にこの30年は聖書学的に新しい進展があった」とした上で、翻訳事業と翻訳理論、聖書協会共同訳の特色を解説した。

従来と大きく変わった箇所としては、「贖いの座」や「キリストの真実」などが取り上げられた。キリストの贖罪意義が述べられたローマ信徒への手紙3章25節は、新共同訳では「その血によって信じる者のために罪を償う供え物となさいました」とされていたが、協会共同訳では「その血による贖いの座とされました」と訳出された。

原語であるギリシア語の「ヒラステーリオン」は、至聖所に置かれた契約の箱の上蓋部分のこと。イスラエルの民の罪汚れを除去するために、ヒラステーリオンに血をかける儀式が行われていたが、これは大贖罪の中心であった。パウロはイエスがこの「ヒラステーリオン」のようだとたとえたのだから、何を意味しているか考える必要があるが、ここでは一つの捧げものではなく、大贖罪全体を指し示していると考えられる。人類の罪を取り除くのがイエスであると比喩で表現した部分なので、「罪を償う供え物」では意味が狭くなってしまうという。

「償う」という言葉も厳密には合っておらず、罪汚れを除去するという意味なので、「ヒラステーリオン(贖いの座)」という言葉を出して、何を意味する比喩なのか、読む人に考えてもらうようにした。キリストの死の贖罪価値を正確に表現するために、このような訳語となったと説明した。

「キリストの真実」という訳語も協会共同訳の焦点の一つ。ガラテヤの信徒への手紙2章16節にある「ピスティス・クリストゥー」は、新共同訳では「イエス・キリストへの信仰」と訳されていた。「ピスティスとは関係性を構築するために重要な要素、つまり信頼性を指す。神と人との関係性について、パウロは『義』という言葉使っている。神と人との好ましい関係性のことを旧約時代から『義』という語で表しているが、人が義とされる要件であるピスティスとは何か。文脈の中で『誠実さ』『誠実なわざ』などと訳されるが、信頼できる他者により頼むことだから『信仰』『信頼』もあり得る。だが、ここでパウロは『ピスティス・クリストゥー』という言葉を使う。伝統的には『キリストへの信仰』と訳されており、『誠実さ』とすると意味合いが変わってくる。そのためどう扱うかとても重要だった。伝統的な訳が間違いだったというわけではないし、どちらにも訳し得るが、パウロの手紙の中で意味が通りやすいかで考え、今回は『キリストの真実(誠実さ)』とした」

こうした新しい訳語は、初めて目にするため違和感があるだろうが、その違和感によって立ち止まり、読み流さずに言葉の意味を考えてみてほしいと淺野氏。

講演後の質疑応答では、「一番好きな聖句は何ですか?」との質問に対し、ガラテヤの信徒への手紙3章28節「ユダヤ人もギリシア人もありません。奴隷も自由人もありません。男と女もありません。あなたがたは皆、キリスト・イエスにあって一つだからです」を挙げ、「2千年前に人種・ジェンダー・社会階層までも取り去ることを述べたというのは衝撃的。信仰の模範として考えている」と応答した。

参加者からは、「真実・信仰の問題を考えながら協会共同訳を読みたくなった」との感想が聞かれた。主催した日本聖書協会(石田学理事長)は、「セミナーを通して、教会やスモールグループによる新しい訳の聖書の通読や学びが行われ、教会やミッションスクールの礼拝で用いられ、四国地方の福音宣教の働きがさらに前進していくことを願っている」と期待を込めた。

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