入管法改定案にNCCが「稀代の悪法」と即時撤回求める

撮影=山名敏郎

参議院法務委員会で6月8日、入管法改定法案をめぐり採決が行われ、自民、公明、日本維新の会などの賛成多数で可決したことを受け、日本キリスト教協議会(NCC、金性済総幹事)は同日、「稀代の悪法となる入管法改定案を即時撤回してください」とする声明を発表した。

声明は、同法案が「法治国家として目を疑うばかりの驚愕の実態と現実が次から次へと明るみとなる混乱状況の中で、参議院法務委員会において採決されようとしていることに深い憤りを禁じえません」と非難。

長く難民審査参与を務めてきた柳瀬房子氏の発言をめぐっては、「入管行政の難民理解の問われるべき根本問題」とし、「国際社会の手前、難民条約は加入したが、この国は難民を受け入れたくないという、全く前近代的、排他的、そして閉鎖的な体質です。そこには先進国としての人道的温かさと責任感のかけらも感じられません」と指摘した。

さらに、日本の入管体制について「21世紀世界の人権の国際基準から全く外れ、まるで人権といのちの重みについての哲学も理念も成熟していない専制国家の有り様」と評し、「日本を世界から人権の理解と倫理観において孤立へと向かわせ、在日外国人のみならず、結局は日本『国民』自身の人権状況を、日本国憲法が保障する個の尊厳、自由、そして平等の理念に逆行して抑圧的な現実へと追い込んでいく」との危惧を表明した。

声明の全文は以下の通り。


内閣総理大臣
岸田文雄様

稀代の悪法となる入管法改定案を即時撤回してください

この要請文が内閣府に提出される今この時間に、既に深刻な問題を抱える入管体制をさらに劣悪な内容に改変させることになる入管法改定案がしかも法治国家として目を疑うばかりの驚愕の実態と現実が次から次へと明るみとなる混乱状況の中で、参議院法務委員会において採決されようとしていることに深い憤りを禁じえません。

今年3月7日に閣議決定され、斎藤健法相を通して4月に国会に提出された入管法改定案とは①3回以上難民申請している人の強制送還を可能にする、②退去命令に応じない人に刑事罰「送還忌避罪」を科す、③被仮放免者を「監理人」が監督監視する「監理措置」制度の創設という内容です。この内容は、一昨年5月、多くの議員と市民の大反対の声の広がりによって実質的に廃案となったものがなにも見直されないまま、国会に再提出されたものです。つまり、政府は国民の批判の声に全く耳を傾けず、ひたすら法務省・入管庁の面子を押し通すような法案提出をし、強行採決をもくろんでいるというほかありません。

しかもこの間重大な問題が持ち上がりました。大阪入管局の常勤医が酩酊状態で収容者を診断していたことが発覚し、その医師は今年1月に大阪入管局での診療から外され、その入管局は常勤医ゼロ状態となっていたのに、4月に公表された政府資料には常勤医一名と虚偽の記載がなされていました。しかもこの事実は既に2月段階で斎藤法相に報告されていたのに、その事実を伏せたまま、岸田内閣は3月7日に改定法案を閣議決定し、4月に国会提出したことになります。そしてその状態で衆議院の法務委員会で法案が採決され、本会議を通過したということは、国会が許しがたい事実の隠ぺいによって欺かれたことになります。これは立法権に対する冒とくを意味するのではないでしょうか。

去る4月19日の衆議院法務委員会で、自民党の議員の質問に対して斎藤法相は「入管庁では、これまで、(ウィシュマさんの)調査報告書で示された改善策を中心に、組織、業務改革に取り組んできたところ、常勤医師の確保等の医療体制の強化や職員の意識改革の促進など、改革の効果が着実に表れてきていると思う」と答弁しました。法務省とは英語でMinistry of Justice、つまり「正義の省庁」と訳されます。あのような現実をひた隠し、国会を欺く斎藤法相の発言のどこに正義があり、また正義の府をつかさどる資格があると言えるのでしょうか。

さらに、長く難民審査参与を務めてきた柳瀬房子氏の長年難民審査する中で、難民に該当する人はほぼいなかった、という最近報道された発言に対しては、これまで参与経験を持ち、難民問題研究や国際法を専門とする人々からは大きな疑義が向けられています。しかしながら、柳瀬氏の難民認識の問題性とは、2020年にウガンダでの同性愛者迫害から逃げて、日本に難民申請した女性の二次審査申し立てに対して「申述書に記載された事実その他の申立人の主張に係る事実が真実であっても、何らの難民となる事由を包含していない」という理由で審査不実施通知書を返した日本の入管行政の難民理解の問われるべき根本問題とつながっているように思われます。すなわち、国際社会の手前、難民条約は加入したが、この国は難民を受け入れたくないという、全く前近代的、排他的、そして閉鎖的な体質です。そこには先進国としての人道的温かさと責任感のかけらも感じられません。

戦後の入管行政の歴史のみならず、今日の日本の入管体制は、21世紀世界の人権の国際基準から全く外れ、まるで人権といのちの重みについての哲学も理念も成熟していない専制国家の有り様というほかありません。このような現実は、日本を世界から人権の理解と倫理観において孤立へと向かわせ、在日外国人のみならず、結局は日本「国民」自身の人権状況を、日本国憲法が保障する個の尊厳、自由、そして平等の理念に逆行して抑圧的な現実へと追い込んでいくことが憂慮されます。

なにとぞ、岸田文雄首相におかれましては、この事態の深刻さに気付かれ、これ以上、入管行政による外国人の人権軽視を放置することによってこの国の法治・人権国家としての誇りと世界の中での信頼を失墜させることがありませんように、この度の入管法改定案の廃案を決断されますことを、心より要請する次第であります。

2023年6月8日
日本キリスト教協議会
総幹事 金性済

NCCが入管法改定案に反対 「歓待と友愛のあふれる地に」 2023年5月11日

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