米国の「宗教の自由」はどこに向かうのか 藤井修平 【宗教リテラシー向上委員会】

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米国における「宗教の自由」は、近年になってますます拡大している。宗教の自由は合衆国憲法修正第1条で保障されているが、近年ではその意味するところは国家の宗教への不介入というよりも、国家による宗教の保護ということになりつつある。昨年の記事(6月11日付本欄)でも新型コロナウイルスの拡大に伴う、米国での宗教の自由に関する裁判事例などをお伝えしたが、今回もまず新しく起こった出来事を見ていこう。

【宗教リテラシー向上委員会】 コロナ禍と米国の「宗教の自由」論争 藤井修平 2021年6月11日

2021年9月、ニューヨーク州では医療従事者への新型コロナワクチン接種が義務化されたことに対して、カトリックとバプテストの医師らが義務化の差し止めを求めた。司法当局は、医療従事者が宗教上の免除を主張した場合には、義務化を一時的に停止するという仮処分命令を下した。またバイデン大統領が定めた、連邦政府職員等に対するワクチン接種か毎週の陰性証明の義務化にも、宗教上の理由による免除が設けられたし、ユナイテッド航空などはワクチン接種を拒否した従業員を解雇しているが、それも「健康上や宗教上の理由で免除を申請している社員を除き」である。

こうした状況の背景には、前トランプ政権の際に行われたさまざまな措置がある。現在大論争となっている人工妊娠中絶禁止法も、前政権時に保守的な最高裁判事が多数任命されたために容認されつつあるし、2020年には性差別を禁じた教育修正法第9条から、宗教を理由にした免除の範囲を拡大する規則も発行された。このため、性差別を行う宗教系学校が増加しているという話も聞かれる。

裁判の事例にも事欠かない。2021年のフルトン対フィラデルフィア市裁判では、カトリックの社会福祉機関が同性カップルなどへのサービス提供を拒否していることが差別的として、市が契約を停止したことに対して訴えが起こされ、契約停止は宗教の自由に反していることが最高裁で認められた。こうした裁判は、「宗教の自由のためのベケット財団」などの支援団体の存在もあり、各地で次々と起こされている。

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このような米国の様子からはまた、日米のクリスチャンの立ち位置というものが、ずいぶん異なってきているということも感じ取れる。日本のクリスチャンの活動は本紙がさまざまに伝えてくれているが、政治的な面もそれ以外の面も、先ほど触れたような動きとはまったく異なるものばかりである。とりわけワクチンの拒否や陰謀論であるQアノンとキリスト教信仰の結びつきなどは、日本側からするとまったく不思議な現象に思えるかもしれない。日本ではむしろ、精神世界ないし「スピリチュアル」系の人々にQアノン支持者が存在していることが指摘されている。

また、米国では宗教への優遇が強まっていることに対し、日本で言うと「無宗教」にあたる世俗主義やヒューマニストの団体が不平等だと批判し、無宗教者にも同等の保護が行われるべきだと主張している。例えば信仰を理由にワクチン接種を拒否できるのに、無宗教者はそれができないといったことだが、こうした感覚も日本ではなじみのないものだろう。

ここから分かることは、同じ宗教といえども時代や社会の状況に合わせて変化するものだし、その変化は今まさに作り出されているということであろう。これは宗教のもつダイナミックな力の現れともいえ、それによって成し遂げられることもまた多いだろうから、その変化が良い方向に向けられることを期待したい。

 

藤井修平(宗教情報リサーチセンター研究員)
ふじい・しゅうへい 1986年東京生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。東京家政大学講師。進化生物学・認知科学を用いた研究を中心に、宗教についての理論と方法を研究している。共訳書にM・エリアーデ著『アルカイック宗教論集』(国書刊行会)がある。

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