【宗教リテラシー向上委員会】 トランプ・カルトとキリスト教(1) 川島堅二

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アメリカ合衆国にジョー・バイデン新大統領が就任するおよそ1週間前の1月12日、私のフェイスブックに扇動的な投稿が流れてきた。

「首都ワシントンに緊急事態宣言が、先ほど正式に大統領報道官により発令され、文書で公表されました! 大事な勝負はわずか数日。……戒厳令の発動及び軍事管理政権の誕生、国家反逆/転覆罪の政治犯の身柄拘束、軍事法廷開催、暫定期間後、新政府移行(新憲法、新国旗、新国名制定)と進むはずです。1月20日にバイデンが大統領に就任する見込みは100%ありません」

「1月17日(日)から18日(月)の間に戒厳令が施行されます。鍵をかけて家から出ないでください。嵐が迫っています。我々を分断するものはもはやありません。トランプ大統領は専用機エアーフォースワンに乗り、7回のメッセージを送ります。すべてのテレビ、ラジオ、インターネット、SNSは遮断され、テレビは1局だけになります」

「Q」というハンドルネームで2017年に匿名画像掲示板へ投稿された一連の書き込みに始まるとされる「Qアノン」に影響を受けた、日本人による投稿だった。その信奉者は、アメリカ政府の奥に潜む悪の権力者ネットワークとトランプ大統領(当時)が戦っていると信じているとされる。

そのようないわゆる陰謀論者の存在を知ってはいたものの、つながりを顔見知りに限定している自分のフェイスブックにまで、このような投稿が紛れ込んでくるとは正直驚きだった。

バイデン氏は、その後、異例の厳戒態勢下ではあったが、無事第46代合衆国大統領に就任。その数日後のBBC(英国放送協会)の報道によれば、この事実に「多くのQアノン派が衝撃を受けていた」という。

カルト信者の心理に精通している西田公昭氏(立正大学教授、社会心理学者)は自身のTwitterでQアノンの今後について、「おそらく過激なカルトが活動することになるだろう。『予言がはずれるとき』という研究があるが、バイデンが就任したのを目の当たりにした今、行き場を失った信者はより過激になる。どれくらいの規模になるのか、カリスマリーダーがどういう人物なのか、トランプ氏がどういう位置づけになるか要注目だと思う」とツイートしている。

西田氏が言及している研究は、社会心理学者フェスティンガーの『認知的不協和の理論』のことである。フェスティンガーによれば、ある信念が、それを持っている人々に衝撃を与えるような明白な証拠によって否定された場合、それを維持し続けることは通常極めて困難である。例えば「空気より重いものが飛ぶことは不可能」という信念を持っている人でも、飛行機が空を飛ぶのを見れば、その信念をたちどころに放棄するだろう。ところがこの放棄が起こらない場合があるとして、アメリカの一部キリスト教の「千年王国運動」や「メシア運動」における終末予言がはずれた場合の事例を挙げている。その場合、かえって以前よりも熱心にその信念に傾倒してしまうことさえあるとされる。西田氏が今後の「過激なカルトの活動」に警鐘を鳴らすのもこうした研究に基づいている。

「Qアノン」には一見したところキリスト教色はないが、これをより広く「トランプ・カルト」(カルト宗教の救出カウンセラー、スティーブン・ハッサン氏の近著)として捉えると、ここにはキリスト教が深く関わっていることが見えてくる。そして、この「カルト」は久しく日本にも伝播して影響を及ぼし始めている。(つづく)

川島堅二(東北学院大学教授)
かわしま・けんじ 1958年東京生まれ。東京神学大学、東京大学大学院、ドイツ・キール大学で神学、宗教学を学ぶ。博士(文学)、日本基督教団正教師。10年間の牧会生活を経て、恵泉女学園大学教授・学長・法人理事、農村伝道神学校教師などを歴任。

 






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